コミックコーナーのモニュメント

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ダンジョン飯13巻 感想


ダンジョン飯 13巻 (HARTA COMIX)

 

 世界中の迷宮から魔力が吹き出し、刻一刻と世界そのものへ悪魔の手が伸びる中、ライオスはどのようにして無限の存在を打倒するのでしょうか。

 まさかまさかの2冊同時刊行。クライマックス&完結の13巻と14巻。

 カオスな表紙にも納得なクライマックス。『ダンジョン飯』13巻の感想です。

 

悪魔から見た人類史

 この漫画で登場した悪魔・翼獅子はどこか底知れない一方で、妙に人間臭い所もあり、逆にその人間臭さも底知れなさを後押しするスパイスになっていて、人知の及ばない不気味な存在として、とても魅力的に描かれていました。

 今回、翼獅子側の視点で彼がこれまで歩んできた時間が描かれたのが良かったですね。とても良かったです。

 底知れないからこそ不気味な悪魔である彼の存在感がいい味を出していましたが、クライマックスでの決着を前にして、彼の側の視点が描かれたことで、彼が口にしてきた言葉が決して嘘ではなかったこと、それでいて決定的に人間とは相容れない存在であることが明白になりました。

 物語的にも悪魔側から見た人間との歴史が面白かったです。

 この世界で主導権を持っている長命種たちも「原初の人間」とでも言うべき人たちがそれぞれにこうなりたいと願った結果の姿であったことや、過去に一度世界が滅びかけた際のことが衝撃的に描かれているのも面白かったですね。

 魔力そのものともいえる存在であり、魔物等の生態系にも、長命種と短命種の様々な人種が繰り広げてきた人類史とも切っても切り離せない悪魔の存在。

 彼はこの漫画のファンタジー世界観の土台そのものだったのですね。魔法が使えるのも、魔物がいるのも、いろいろなファンタジー人種がいるのも全て悪魔のおかげ。

 この漫画はその世界に存在するファンタジー要素のその全てを「悪魔」という異次元の存在で綺麗にまとめて説明してしまったのです。とても衝撃的で、感動すらしました。

 歴史の話に戻りますが、古代人は悪魔に欲を与え続けて滅んだことは9巻でミスルンが言っていました。

 ただ、発達した文明が何らかの形で行き詰って戦争に突入といった感じの滅び方を想像していたので、今回明らかになったあの滅び方は衝撃的でしたね。

 元々悪魔は生物の欲望を食らい抜け殻にしてしまう存在でしたが、邪悪ではありませんでした。

 それが人間の欲望を学んだ結果、その欲望が果たされない苦しみを知り、人間の愚かな願いを叶えてしまった結果に絶望し、人間とは全く違う異形の瞳で、まるで人間の様な目つきをするようになっていったと。

 過程が丁寧かつ共感できる様に描かれているのがとてもいいです。悪魔から見た人類との歴史。

 地上まであと一歩。万感の想いでライオスたちと対峙する翼獅子。

 とても簡単な言葉では言い表せない味のある場面でした。

 

ライオスと悪魔の誘惑

 「まず俺がマルシルに変わって迷宮の主になる!そしてすかさず!“悪魔が人間に手出ししない平和な世界”を望む!!すると翼獅子は俺の願いを叶えざるを得ない!!悪魔は今後人間に手出しできなくなり一件落着だ!!」。

 もっと深い考えや、作戦があるのかと思えば思った以上に単純明快な考えのライオス。

 その一方で、マルシルが暴走した理由や、自分の暴走への対処方法を一応考えている辺りは流石のライオス。

 そして、迷宮の主となり、悪魔の攻略に取り掛かりますが、結果は失敗。

 悪魔の言葉に切り崩されてしまいました。ライオスは悪魔に身体を明け渡し、自分は魔物になることを選びます。

 ここも魅力的な場面でしたね。

 単純に自分の欲望に負けたというのではなく、ライオス自身の本質や、ライオスの望んだ「悪魔が人間に手出ししない世界」での未来がどうなるか、その世界ではファリンを生き返らせることもできないことを突き付けられて、そこから切り崩されていきます。交渉上手の悪魔。

 ライオスがマルシルに好意を抱いていたことも、割と本気で魔物になりたいことも9巻でサキュバスが化けたライオスの理想・ギガヘプタヘッドマルシルの設定で明らかになっていました。

 しかし、悪魔がライオスに成り代わって仲間の元へ戻ることや、マルシルを独りにせず彼女が天寿を全うするのをライオスの姿で看取るという提案を否定せず受け入れてしまうライオス。

 マルシルと結ばれたいという男女の恋慕の情や、仲間たちと共に生きることよりも、魔物になりたいという願いの方が強かったのですね。ライオスの感性が常人離れしていることはこれまでもコミカルに描かれてきましたが、シリアスな場面でこうもはっきり見せつけられると、常軌を逸していることが良くわかります。

 その一方で、ライオスの感性が常人離れしていることが明らかになればなるほど、人間らしくない感性を持ちながらも人間らしく生きようとしていたライオスの人間味に魅力を感じてしまいました。

 なんだか言葉遊びみたいですが本心です。

 本質的に善でなくとも善であろうとする姿勢と言いますか、人と決定的に違うのに人らしくあろうとした結果が、あの人間に無関心なのに仲間想いの彼の姿であったのかと思うと、その非人間的だからこその人間味に愛おしさの様なものすら感じてしまいましたね。

 これまでと同じ単なる願いの具現ではなく、悪魔の血肉を取り込んで変身するというのも何か意味深長ですね。もし人の姿に戻れても、マルシルより長生きしそうです。

 

「俺の考えたカッコいいモンスター」な自分をお披露目するライオス

 89話のラスト、シルエットで登場した魔物のライオス。

 圧倒的な巨体の迫力がある一方で、これまでにも何度か登場したライオスの考えた理想の魔物そのものの姿だと思っていたら、次の90話で全容が判明。

 以前登場した姿そのものだと思っていたら、ちゃっかりバージョンアップしていて笑いました。グルメガイドの書き込みによると「犬の頭はやっぱり欲しい」だそうです。

 このグルメガイドに書き込まれた「俺の考えたカッコいいモンスター」で魔物の正体が判明する流れが面白かったですね。

 誰も知らない全く未知の魔物の登場。

 「ライオスなら知っているんじゃないか」から「ライオスのグルメガイドに魔物の解説が載っているかも!」となって、最後のページにみっちり書き込まれたイラストと設定を発見。みんなでその設定画を回し読みした後で、誰が書いたものなのかという問いに「うちのライオスです」と答えるマルシル。

 訝し気にグルメガイドを回し読みしていたみんなの想いが1つになった瞬間の各々の反応の微妙な違いが楽しいです。

 私としてはこれまで積もりに積もったライオスへの怒りや不満がまとめて再燃していそうなシュロ―、心の底から呆れ驚いている感じのゾン(オークの族長)、物凄く睨んでいるセンシの表情がお気に入りですね。

 みんなが回し読みしている間にライオスや悪魔に動きはないのかと疑問がわきますが、それすら含めてのギャグですね。場にそぐわない悠長な時間。

 みんなで回し読みしながら魔物を観察している間はまるで「おかしさ」が積みあがっていっている様で、魔物の正体が判明した瞬間にそれが爆発した感じが最高です。

 

最強の魔物ライオスVS無限の悪魔

 魔物になったライオスと、悪魔の戦いはこの漫画のクライマックスにふさわしいものでした。

 地上に到達し、その無限で万能な力を世界中で使うことが出来るようになった悪魔。

 そしてそんな悪魔を摘み上げ、涎を垂らしながら凝視するライオス。

 最強の魔物と無限の悪魔の戦い。

 食べられても食べられても無限に増殖する悪魔。自分の姿の悪魔を食らい続けるライオス。そして、無限に増え続ける物量で巨体のライオスすら圧倒する悪魔。

 他の漫画ではあまり見たことのないユニークな絵面が多く登場した『ダンジョン飯』ですが、無限増殖するライオスの図はその中でも異質な迫力のある場面でしたね。

 巨体が崩れ落ち、勝負はついたと思われた瞬間、異変に気付く悪魔。何かを咀嚼し続けるライオス。

 ここからの場面はまさにダンジョン飯の集大成。

 ライオスが咀嚼していたのは「悪魔の欲望」。ライオスが考えた魔物の設定の中に含まれていた「欲望を消化することができる」という能力。

 無限に増殖する悪魔を食らいつくすことは出来なくても、悪魔を悪魔たらしめるその欲望「人間の欲望を食らいたいという食欲」を食らいつくせばどうなるのか。大慌ての悪魔を見れば一目瞭然。

 ライオスに欲望を食らわれる悪魔の姿は、悪魔に欲望を食らわれたシスルや、ミスルンの姿と重なり、まさに因果応報。

 「…知りたくなった……本来 人知が及ばぬほどの存在のキミがここまで執着する“欲望”とは――――果たしてどんな味がするのかと」とライオスの知的好奇心という「欲望」が、人間の様々な欲望を食らって成長してきた悪魔を逆に圧倒するという熱すぎる展開。

 そして異世界から来た悪魔にも適用されることとなったこの世界の絶対のルールにして、この漫画『ダンジョン飯』のテーマ「食うか食われるか」。

 その生存競争を表現する見開き一枚絵。無数のライオスの屍の上で悪魔・翼獅子に食らいつく怪物・ライオス。

 まさにこれまで積み上げられて来たものが、きれいに結実した最終決戦決着。これまでの物語の展開、絵の表現力、テーマ、世界観と世界設定。そういうものが全て1つになって私の胸中に大きな感動を生み出しました。

 意外性抜群でそれでいてライオスらしくこの漫画らしい悪魔の倒し方、そして漫画の構成としてあまりに美しい決着。本当に感動しました。

 

 

 ダンジョンがいくつもあったり、悪魔が様々な姿で現れたり、シスルの本が2冊あったりしていたので、「無限の魔力の意思」とでもいうかの様な悪魔にも、複数の側面というか人格の様なものがあるのではないかと思っていたのですが、よもやま話ではその辺りにも触れられていて面白かったですね。

 ライオスに最後の呪いの言葉を残して消滅した翼獅子。

 「残された僅かな時間で後悔するがいい」と言っていたのも気になりますね。果たして悪魔の血肉を取り込み、その欲望まで食らったライオスはどうなってしまうのでしょうか。今回は2冊同時刊行だったのですぐに続きが読めますがドキドキしています。