コミックコーナーのモニュメント

「感想【ネタバレを含みます】」カテゴリーの記事はネタバレありの感想です。 「漫画紹介」カテゴリーの記事は、ネタバレなし、もしくはネタバレを最小限にした漫画を紹介する形のレビューとなっています。

ダンジョン飯ワールドガイド冒険者バイブル完全版 感想その①


ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル 完全版 (HARTA COMIX)

 

 第一章「人物」、第二章「魔物」、第三章「世界」。巻末にはアートギャラリー。描き下ろし漫画に、細かいお楽しみ要素もたっぷりのダンジョン飯のファンブック。『ダンジョン飯ワールドガイド冒険者バイブル完全版』の感想です。

 なお、完全版の冒険者バイブルには『ダンジョン飯』の物語や、そのエンディングのネタバレが含まれているので、まだ最後まで読んでいない人はご注意ください。

※この記事は完全版発売に伴い、2021年発売の冒険者バイブルの感想を一部変更したものです。いつもの記事より注釈が多くなっておりますがご了承ください。

 

物語の背景の気になる部分をばっちりフォロー

 ダンジョン飯はその舞台の世界の設定がしっかりしていて、人物描写も魅力的な漫画です。

 だからこそ、あれこれと想像力が働いて、物語の「背景」の部分があれもこれもと気になる作品でもあります。

 本編で少しずつ登場人物の過去が明かされ、世界観が鮮明になっていく楽しさはあったのですが、良くも悪くも脱線せずに物語が進むため、その背景やら、個々の人物の物語は非公開のまま終わるのではないかという予感がありました。

 そんなダンジョン飯のワールドガイドということだったので、これは買わねばと手を出したわけですが、まさに私が期待した通りの方向性で、期待以上の内容でした。

 世界やら、人物やらの背景や、事情に関する情報は、まさに痒い所に手が届く内容。

 描き下ろし漫画が充実していたのも素晴らしかったです。ノリは「よもやま話」に近い感じですね。

 年齢や身長と並んでBMIまで載っていましたが、こういう部分もとてもダンジョン飯らしいです。

 2021年の冒険者バイブルの時点でも上記の様な充実の内容でしたが、2024年に発売した完全版は物語終了時に匂わせつつも明言はされていなかった部分や、物語終了後の登場人物たちの動向についても書かれていて、まさに「これぞ完全版」という感じでしたね。

 

シュローと仲間たち。父親も気になる

 シュローの実家はてっきり領主か藩主のような家かと思っていたのですが、工作や諜報を代々行ってきた家系だというのは意外でした。

 マイヅルさんも主であるシュローの父親を「あの馬鹿」呼ばわりする等、本編を読んでいた時に想像していたよりも距離感が近いです。

 距離感が近いと言いますか、はっきり男女の中であるとシュローの項にも、マイヅルさんの項にも書かれていましたが。

 夜中に泥酔したまま自分の部屋に乱入してきたシュローの父親とのやり取りはいい味が出ていました。「子猫をやる」と言われた時のマイヅルさんの表情が特にいいです。  まあ、子猫の正体はイヅツミだったわけですが。※完全版で追加された漫画「イヅツミとリシオン」である意味でこの子猫という表現が間違っていなかったことが判明しました。

 イヅツミや、イヌタデを拾ってきたり、シュローたち兄弟に無茶ぶりをしたり、マイヅルさんと腐れ縁だったりと、シュローの父親にも興味を惹かれます。

 本編では影の薄かった忍者娘の2人、ヒエンとベニチドリもはっきりと好感の持てるキャラクター像があり、その魅力がしっかり漫画で表現されていたのも素敵でした。

 1ページ×2だけの漫画で、これだけキャラクターの魅力を表現できるのには驚きます。

 

カブルーと養母ミルシリル

 本編でも出番が増え、活躍が著しいカブルー。

 スポットライトが当たり始めた頃は、陰湿かつ危険なキャラクターという印象でした。

 ライオスパーティーの苦境を知り、そわそわワクワクしながら「あいつらの化けの皮が剥がれるのを待ってたんだ」等と言っていたもので。

 その後、物語の展開と共に、彼の過去と背景が語られ、自分の納得できる答えを求めて必死であがく様子に、印象がずいぶんと変わったキャラクターでした。

 今回は彼のページに加えて、彼の養母であるエルフ・ミルシリルのページもあり、2人の関係について本編を補完してすっきりさせてくれました。

 本編を見た限りでは、ミルシリルはカブルーを溺愛した反面、「カブルーを諦めさせるために」スパルタな訓練を施す等、歪んだ人物であり、カブルーがエルフ他、長命種とわかり合うことを諦めるきっかけになった人だと思っていました。

 それも間違っていなかったわけです。ミルシリルは明らかに短命種の子供を愛玩動物あつかいしている節がある事も、今回の人物紹介と描き下ろし漫画を見た限り間違いなさそうです。猫好きの人が猫にする様に「吸って」いましたし。

 ただ、カブルーがミルシリルに感謝していることや、ミルシリルが熱心にカブルーにいろいろなことを学ばせ、子供の好奇心や疑問に答える努力を惜しまなかった様子も描かれていたので、大分印象が変わりました。

 ミルシリルが担当していたと思われる囚人のヘルキ(62話で名前を確認)が、人体構造や人体急所を教える際の教材替わりになっていたのには、くすりときました。ひどい公私混同。理不尽ギャグ的な面白さですね。※完全版での追加情報でヘルキはミルシリルが引退した時に引き取られていたことが確定したので、いささかブラックではありますが、公私混同ではなかったようです。

 

カナリア隊とリシオン

 カナリア隊の面々も人物紹介のページに載っていました。ミスルン隊長や、前述したミルシリルについても載っていましたが、他のメンバーも中々に個性的で面白かったです。

 そんな中で、特に気になったのが囚人の1人・リシオン。

 彼は自分の肉体を魔術的に改造しており、獣の姿に変身して戦います。改造人間的な方向性の狼男です。同じく改造人間で猫娘であるイヅツミに近いですね。イヅツミと違い、彼は自由にエルフの姿と狼男の姿を切り替えられるようですが。※この辺りの違いは完全版で説明されました。

 彼はエルフ達の中でも特に美しい外見の持ち主ですが、昔から独特の美意識・美的感覚を持ち、鏡に映る自分の全てが醜くて気に食わないと感じていました。

 そんな中、古代人が亜人を作った魔術と、それによって生み出される人工獣人のことを知り、彼は晴れて美しい身体を手に入れることができたという訳です。現在は自分のかっこいい身体をみんなにも見せてあげたくて露出狂気味。面白い人です。

 魔物好きを拗らせて、むしろ魔物になりたいライオスと気が合いそうです。ぜひ。この2人の会合を見てみたいです。※後によもやま話などで会合がありました。

 人間の姿と獣人の姿を切り替えられるリシオンは、イヅツミの人間に戻りたいという望みをかなえる糸口になりそうだなと2021年の時点では思っていたのですが、2024年の完全版での「イヅツミとリシオン」でこの辺りの事情がばっちり説明されることになりましたね。読者の疑問に思う点をしっかり解説してくれる九井先生のサービス精神には頭が下がります。

 

ダンジョンについての疑問とか、マタンゴとか、シェイプシフターの真実とか…

 第三章は世界観の背景となる世界設定に対する説明。世界地図やエリアごとの情報などについても色々と書かれていましたが、人種ごとの情報をそれぞれ分けてまとめてあったのが良かったです。

 ファンタジー世界の架空の種族ごとの文化・文明の設定。こういうのは大好きです。架空の世界を形作るからには、ディテールと、リアリティーは大切ですよね。

 「ハーフフットが本来自分たちを言い表すための言葉が共通語では発音が憚られる単語であったため、呼称の乱立の原因になった」というエピソードが面白くて好きですね。

 この世界のトロールはトールマンのことでしたが、ゴブリンはハーフフットだったと。コロポックルらしき単語もさりげなく混ざっている等、この辺りも楽しいです。

用語集の迷宮の項もやはりいろいろ気になることや、いままで謎だったことを補完する情報がありました。

 「古代人が異次元から無限の力を取り出すと同時に、その異次元からやってくる「悪魔」の侵入を防ぐために作ったのが迷宮ならば、17話で出て来た洞窟のダンジョンは何だったのだろう?」と疑問に思っていたのですが、その疑問も解消されました。自然に異次元とつながったのですね。

 こういった細かい疑問が大分解消されてすっきりしました。ダンジョンが何か、迷宮が何かという話についてはまだ明かされていない裏がありそうですが。

 後、忘れてはいけないのがマタンゴです。よもやま話のオチとして登場していましたが、そもそもマタンゴは歩き茸とは根本的に別物でしたね。特撮ネタです。

 そして、原形をとどめないほどに浸食されているものの、茸そのものではなく、人間が茸に寄生されている状態であるからこその悍ましさであると。その点に今更ながらに気付きました。

 39話、40話で登場したシェイプシフターが生み出した幻の犯人捜しを今更に専用のコーナーまで作ってやっているのも面白かったですね。

 それぞれの幻についてなぜそのような幻になったのかの解説まであって妙に具体的なその内容に笑えました。

 

センシの日記:「生活の記録」

 巻末の「アートギャラリー」にはダンジョン飯の掲載誌である『ハルタ』の企画で掲載された漫画などが載っています。

 その中でも、センシが日々の生活について記した日記・「生活の記録」はファン必見の内容です。私は単行本派の読者なので初見でした。これが読めて本当に良かったです。

 主要な登場人物の中で、ライオスとはまた別の意味で考えが読みづらいセンシ。

 主人公であるライオスに比べて、内面描写が少ない彼が、普段どんなことを考えているのか、思っているのかよく分かる内容で新鮮でした。意外性も抜群。

 ライオスがセンシにどう思われているかはっきりとかいてあったり、チルチャックのことをずっと子供だと思っていたセンシがそのことについていろいろコメントをしていたり、短く端的な文章の中から、普段はいまいちよく分からないセンシの内面が窺えます。

 センシが割と絵がうまいのも意外でした。

 3巻で登場したタンスさんを指して、「あんな鋭い目をしたノームは初めて見たな」と記していましたが、そのすぐ下にタンスさんの鋭い目つきを絵で表現しようと試行錯誤した後があって笑いました。

 完全版では迷宮が崩壊し、ライオスが戴冠した後の部分まで日記が更新されていました。元々が雑誌ハルタのおまけだったものだったので更新分は描きおろしですね。サービス精神が本当に凄いです。

 

 

 第二章のモンスター図鑑もフルカラーで見ていて楽しかったです。

 他にもチルチャックの娘たちのことだったり、本編で何回か登場している新人冒険者のフィオニルに意外な設定があったりと、全体的にかなり楽しめました。

 感想その②に続きます。

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