セントールの悩み(23)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)
物語の展開も取り扱われる話題も相変わらず興味深いです。
今回は特に私の好みのエピソードが多かったセントールの悩み23巻の感想です。
怪物・妖怪。伝承とイメージとお約束
187話ではハロウィンらしきイベントの仮装の話から、巷に広がっている怪物像や妖怪像は、本来の民話伝承よりも映画や創作物で作られたイメージに寄っているというお話に転がりました。
「妖怪」という言葉が出てきた時に某ゲゲゲの巨匠のキャラクターの図が出てきましたが、妖怪という言葉を使うならこのお方の影響を無視することはできませんよね。それまでは妖怪という概念すら一般的ではなかったそうですし。
しかし、ここで大笑いしてしまいました。
子泣き爺と、一反木綿の目元には黒い線が入り、更に子泣き爺は長耳、一反木綿は4本腕と六肢人類バージョンになっていたからです。おまけに子泣き爺の前掛けは「金」が「全」になっていました。
絵面のパチモン感が凄まじい一方で、「この世界」としては正しいビジュアル。しかし目元の線やら「全」の字やらが絶妙に胡散臭いです。
このある意味でうまく、ある意味で酷いバランス感覚といいますか、それとも、脳がうまく処理できなくて笑ってしまう感じとでも言いましょうか。この可笑しさを何と表現したものでしょう。
まあ、要するに笑いのツボに入ったということですね。とにかく大笑いしました。
理性と神
189話では度肝を抜かれましたね。
自分の兄と、その恋人・暁美さんに勉強を教える恭子の話は、以前から続いていたエピソードでしたが、そこからまさかあんなことになるなんて思いもしませんでした。
お話は恭子たちの日常から、かつて宇宙キノコに攫われた後、それを撃退した人馬たちのエピソードに切り替わります。相変わらず大胆な場面転換です。話のテーマも知性の話から理性の話へ。
「理性」を得るには自らを客観視することが必要で、その客観の視点とは、すなわち「神の視点」であると。
いつもどおり話の中身も濃い目で良く、宇宙キノコに集められた多種多様な種族の一団が何故一致団結していられるのかについても、さらりと説明されているのもすっきりしましたね。
しかし話はここでも終わりません。
彼らが理性なき争いを続ける知的生命体「ミーミーテレ」に理性を与えるために行った「神の啓示」。宇宙キノコのシステムを使って行ったそれが地球にも届いてしまったという展開には驚きました。
宇宙的な規模で言えば割と近い位置だったのでしょうか。それともそれだけ宇宙キノコの交信能力が凄いのでしょうか。
さらにさらに何やら話は不穏な展開へ。宇宙キノコに寄生された暁美さん。彼女への異常な情報集中によって「とても危ないもの」まで呼び出されてしまう所だったのだとか。
スーちゃんのファインプレーで最悪の事態は回避され、暁美さんも救出されたので一安心ですが、何やら今後の展開に影響しそうな不穏な空気が残りました。
それはそれとして、笑い所もありました。
他の宇宙キノコたちはもとより、地球人類でも「神の啓示」には反応していた人が多かったのにも拘らず、対局中のパソコンモニターから目を離さなかった将棋キノコ。彼女はもう手遅れですね。
宇宙のかなたの惑星ニボシビルで啓示を受け取った宇宙人達が作った神像が、前の巻で登場した怪獣タコマッチョの姿だったことにもくすりとしました。
ただ、これは6巻・30話で姫乃が実際に目撃したエイリアンが、古いSF雑誌に創作上のキャラクターとして掲載されていたように、映画のタコマッチョは南極人の情報操作のためのものだったのでは、という可能性も頭をよぎりました。
彼らはその姿の「何か」を元々知っていたのではないかと。もしそれが哺乳類人の目に触れた時に誤魔化しやすくするために、映画のキャラクターという形に貶めたという事も考えられる気がします。
話のテーマも興味深く、色々と想像を掻き立てられる展開で、笑い所もあって大満足なエピソードでした。
スズキさんではなくタナカさん
今回のおまけページは『日本の恐竜と同時代の動物』でした。
それにミツバタナカリュウという項目があって、ここで笑ってしまいました。
これは私たちの世界でのフタバスズキリュウに該当するものなのでしょうが、双葉ではなく三つ葉。鈴木さんではなく田中さん。
ユーモアのセンスというよりも、分かりづらいジョークがさらりと混ぜてあったことに笑ってしまいました。いえ、その辺りも含めてユーモアなのでしょうか。
私は子供の頃に、某国民的青猫ロボットのアニメの劇場版第一作を見ていたので気付きましたが、そういうことでもなければ、よほど恐竜好きの人でもないかぎり気付かないのではないでしょうか。
本編内のものにしても、おまけページにしても、私が気付かずに見逃してきたネタがこれまでにどれだけあったのだろうかと、改めて気になりました。
21巻の176話の組織的形態差別事件の時の扉絵は、某馬娘のイメージなのだろうかなという様に、大分後になってから気が付くこともあるのですが、気に留めることもなく、気付かずに流してきたネタがこれまでにどれだけあったことか。
解説書が本気でほしいです。解説書があっても全ての小ネタまで拾うことは無理でしょうけれど。
ブラックなサンタ※衣装は赤色
御霊家の末ちゃんが通う幼稚園。サンタさんが来なかったと泣くのは、末ちゃんのことが大好きな滝ちゃん。
彼女を慰めるために、御霊さんにサンタさんの衣装を出してもらう末ちゃん。
友達思いの優しい末ちゃんに、家計が苦しくとも家族サービスにはしっかり投資する優しい御霊さんに、末ちゃんの思いやりに感激する滝ちゃんとほっこりする展開。
ところが、そのままほっこりで終わるのかと思ったら、サンタの衣装を貸してもらった滝ちゃんは末ちゃんを袋詰めに。園児2人分の衣装が入っていた袋は、末ちゃんがすっぽりと入るサイズでした。
滝ちゃんによる末ちゃん誘拐未遂事件というブラックな方のサンタ伝承みたいなオチに笑いました。
流れるような自然な動作で袋をかぶせる上に、目が本気の滝ちゃんと、コマの形と構図の都合で顔が映らず、フキダシの形と、セリフのフォントで慌てぶりを表現する幼稚園の先生がツボです。
他にも、烏丸さんの元恋人のバイト先の店長の恋バナに、日本の武士に関する歴史の話、御霊神社絡みのエピソードと、群像劇・多方面展開で扱われる様々なテーマのエピソードが盛り沢山。
つまるところ、いつも通りのセントールの悩みだったわけですが、テーマ的にも、細かい笑い所的にも、今回は個人的なツボに入ったものが多かったので大満足でした。
いつも通りと言えば、御霊さんは相変わらず最強でしたね。
羽織ゴロに一切隙を晒さず、カルト信者の発生を予防し、その上、御霊神社の御祭神が苦戦する相手を文字通り「一蹴」。
「神の啓示」関連で何やら不穏な空気が残りましたが、ことオカルト方面では御霊さんをどうにかできる相手が出てくるとは思えません。
御祭神を呼ぶための呪文を何故か一発で唱えられた末ちゃんも気になりましたね。これも巫女の才能の兆しなのでしょうか。次巻も楽しみです。