※電子書籍版と書籍版で、表紙および一部カラーイラストなどが異なります。上の画像は電子書籍版です。
地方の文化資料館で学芸員をしている旦那さんと元禄時代生まれの狐のお嫁ちゃんのまったり新婚生活物語。その感想です。
あざとかわいい狐のお嫁ちゃんと草食系の旦那さん
現代を舞台にした異類婚姻譚なわけですが、モフモフ多めなのがとても良かったです。
「人化の術」で人間に変身することができるお嫁ちゃんですが、耳と尻尾は出していた方が楽ということで、地元では出しっ放しです。
狐の姿が本性ですが、人間の体の扱いにも慣れており、料理をはじめとした家事の他、ベーゴマや羽子板も得意な様子。しかし、日常の中で狐の姿を取ることもあるため、人型と狐型の両方の姿を楽しむことができました。
このお嫁ちゃんがあざとくてかわいいです。
Batta先生が特別あざとい演出をしているのではなく、お嫁ちゃんがあざといのです。
旦那さんを誘惑しようといろいろな出で立ちで迫ってみたり、ラブホテルに誘導しようと疲れたふりをして駄々をこねてみたり、顔を覆ってウソ泣きをしていたはずなのに、旦那さんにうれしいことを言われて、指の隙間から旦那さんの顔をまじまじと見てしまったりと本当にあざとい。水着で海に遊びに行くときに、人化の術を調節してこっそり胸を増量なんてものもありました。
ただ、嫌なあざとさではないので、むしろそこが楽しいのです。あざといのは旦那さんに対してだけで、基本的に良識があり、人間社会のルールを守るお嫁ちゃんです。
そうなると、今度は旦那さんに読者の嫉妬が集まりそうなものですが、草食系で普段はお嫁ちゃんに押されっぱなしの旦那さんが、またいい味を出しています。
基本的に常識的な突っ込みを控え目に入れていることが多いのですが、お嫁ちゃんが人間の街で問題なく生活できるようにいろいろと工夫し、緊急時の対処方法もあらかじめ押さえておくなど、いざという時は頼りになる旦那さんです。学芸員ならではの知識がさえる場面もありました。
この旦那さんがいるからこそ、お嫁ちゃんの長寿の狐としての昔語りも活きてくるわけです。
生類憐みの令で野犬があふれていた幼少時代のトラウマで、大の犬嫌いのお嫁ちゃんが犬がらみで酷い目に遭う話や、旦那さんの職場の文化資料館で講演する話は特にその部分が活きていますし、海水浴の話では、旦那さんがただの弱気な突っ込み役ではないことが証明されました。
周囲の人も癖が強い
さて、そんな二人の周りですが、これまた個性派の人たちがそろっています。
まず旦那さんの職場。
遊びの歴史が専門の児童文化研究者で、ショタ好きを自称する田端さん。
普段はクールだがメガネをクイっと上げながら、「祖母と姉と母を兼ね備えた存在…長寿の狐と民俗学に精通したメガネ男子の取り合わせって…凄くいいと思うエンタメ性あるよ…」などと突然早口でのたまう笹山女史。
そんな癖のあるメンバーをまとめながら、いつも笑っているやたらと器の大きい館長と曲者ばかりです。
旦那さんの実家も、両親はお嫁ちゃんの正体を知った上でデレデレし、父親にいたっては、完全人化状態のお嫁ちゃんの頭から狐耳が生えてくる場面を目撃し、旦那さんにサムズアップします。
旦那さんの妹の新芽は女子高生にして鷹匠。恥ずかしがり屋でお嫁ちゃんが近づくと逃げるのに、アメちゃんにつられます。
この個性的なメンバーとお嫁ちゃんのやり取り、そして振り回される旦那さんがたまらないです。
お嫁ちゃんですが、狐の割合と、乙女の割合と、長寿の人外の割合がとても絶妙でいい味を出しています。二人の今後も気になりますし、日常での一幕もまだまだ面白いネタがたくさんありそうなので今後がとても楽しみです。