虚構推理(20) 番外編小冊子付き特装版 (月刊少年マガジンコミックス)
※今回は通常版と番外編小冊子付き特装版の2種類があるのでご注意ください。こちらの表紙は番外編小冊子付き特装版のものです。
感想その①はこちらです
まさかまさかの「MK」続編に、新章もスタート。虚構推理20巻番外編小冊子付き特装版の感想その②です。
MK 再び
目次に「MK復活」というタイトルがあるのを見た時点で笑ってしまいました。
19巻で登場したメカ琴子ですが、まさかまた出てくるとは思いませんでした。
いえ、頭のどこかで可能性を考えないではなかったのですが、こんなに早く再登場するとは思いませんでした。
六花さんの隠れ家にたむろする妖たち。琴子の容赦のなさを恐れる一部の妖たちの存在と、彼らと六花さんの関係は、今後の展開にも影響してきそうですね。
そして、メカ琴子に搭載された生体パーツこと猫ちゃんたち。
彼らの扱いをめぐる琴子とそれ以外のメンバー全員の反応のズレに笑いました。妖たちまで含めて、琴子以外みんな猫好き。1人だけ猫に容赦のない琴子のアウェー感が凄いです。
1つ気になったのは、メカ琴子に搭載された猫ちゃんたち、メカ琴子の登場シーンで見える位置に6匹いましたが、気まぐれな猫ちゃんたちをよくこんなにメカ琴子に乗せることができましたね。
まさかとは思いますが六花さん、猫ちゃんたちを集めたり、乗せたりするのに、件の未来決定能力を使ったりしていませんか。
猫ちゃんたちをメカ琴子に乗せるために自分の喉を掻っ切る六花さんを想像したら、どんなリアクションを取ればいいのか混乱しました。シュールというには流石に絵面が血生臭いです。あくまで私の想像の中の絵面ですが。
「次回『ML飛翔』刮目して待て」なんて煽り文句で終わった69話「MK復活」。次回予告を単なるギャグだと思いつつも、ギャグとしての嘘次回予告だと読者が思ったからこそ、裏をかいて本当にもう1話ぐらいやりそうな気がします。
なんて思っていたら、原作者の城平京先生のあとがきで次巻についての言及がありました。「『MK』シリーズも完結予定です」とのことですが、もう笑ってしまいましたね。やはり本当にやるのだと。
3回目の登場でも今のキャタピラのままなのか、もっとアップグレードしてパワーアップするのかも気になるところですね。
壊されることが分かり切っているのにメカ琴子を作り続ける六花さんの本当の狙いも気になります。
怪しいことが多すぎる新章「飛島家の殺人」
飛島椿(とびしまつばき)の前に現れた幽霊・植村健三(うえむらけんぞう)。
生前飛島家に長く使えていた彼は、50年前に起きた殺人事件以来、ずっとベールをかぶり続けている「龍子(りゅうこ)奥様」のことが忍びなくて成仏できないと言います。
若い頃、その先見の明で飛島家を盛り立てた恐るべき才女・飛島龍子。
ところが、50年前に夫である走太郎(そうたろう)が交通事故死して、腹心の部下である巻田孝江(まきたたかえ)が金を横領して失踪。
しかし、これは表向きの説明で、実際は走太郎が巻田孝江を空き巣の犯行に見せかけて殺害。それが露見すると車で逃走しそのまま車ごと転落死したというのが事件の顛末だそうです。
事件は信用の失墜を恐れた飛島家によって隠蔽され、殺人事件のことを知っているのは龍子、龍子の父・道義(みちよし)、龍子の2人の息子・頼行(よりゆき)・登(のぼる)、健三さん夫妻の6人のみ。
この事件以降、龍子は新規の事業や投資には手を出さなくなり、夫の死を悼み続けるかのようにベールをかぶり続けているそうです。
今回、嘘の解決案で合理的な説明が求められているのは、50年前に隠蔽されてしまった事件の犯人は、本当に龍子の夫である走太郎(そうたろう)であったのかということ。
殺人現場に行ける道は1つしかなく、走太郎が犯行可能だった時間に、その道を誰も通らなかったという証言があったからこそ、浮上した疑惑でした。
事件の詳しい経緯については、次巻で語られるそうですが、ミステリー的にも、漫画の演出的にも、現時点で怪し気なことが多すぎます。
ミステリーにおける仮面(ベール)の役割:飛島龍子と巻田孝江の入れ替わり説
まずミステリー的に怪しい点です。ベールをかぶり続ける老女は、本当に「龍子奥様」なのでしょうか。
ベール以外でもそうですが、執拗に顔を隠し続けている人物がいたら、ミステリー的にはそれだけで人物の入れ替わりを連想してしまうくらいの定番中の定番。もはや様式美の様なものだと思います。
私は殺人事件で本当に殺されたのは飛島龍子だったのだと思っています。
現在の「龍子奥様」は失踪・殺害されたことになっている巻田孝江ではないでしょうか。
まず、事件後に龍子が一線を引いた件。飛島家の商売で手腕を発揮しようにも、龍子本人の様な才覚・能力ないので、事件のショックで一線を引いたという体を取ったと考えることができます。
そもそも、巻田孝江が龍子に成りすますこととなったのは、龍子の死と、走太郎の殺人によって、信用失墜して借金を抱えて崩壊するはずだった飛島家の事業を何とか軟着陸させるためだったのではないでしょうか。
こう考えると、いろいろと細かい部分でも辻褄が合うのですよね。
飛島椿が抱いた「違和感があった。ベールを取ったおばあさまはいつも硬い表情をして」という祖母への印象の件も、化粧を崩さない様に表情を動かさなかったのではないでしょうか。
特殊メイクまでいかなくても、化粧で実年齢よりも老けて見える様にすることは可能です。ただ、相当な厚塗りになるでしょうから、化粧が崩れない様に、また表情を動かしたときに不自然に見えないように、気を付けていたのではないでしょうか。
90歳を過ぎたのに年の割に健康で足腰もしっかりしているというのも、単純に実年齢がもっと若いからではないかと考えられます。
殺された「巻田孝江」の遺骨が飛島家の墓に納められたという説明も気になりますね。
下手に埋めて後で見つかることを恐れたと考えることもできますが、それならば、そもそも燃やして骨にしている時点で外部へ発覚するリスクがありそうです。
それ以前に、自分たちの一族に殺された人間の骨を自分たちが入る墓に入れたいと思いますかね。
わざわざ遺骨の状態にして飛島家の墓に入れたのは、それが飛島龍子本人だったからではないでしょうか。
健三さんは本当に健三さんか:漫画の演出と話の辻褄
漫画的な表現や、演出、構成などにもいろいろと怪しく思えるところがあります。
そもそも飛島龍子と巻田孝江の入れ替わりが可能だと判断した理由の1つも、2人の顔の絵が、ベールや厚化粧で誤魔化すことができる程度には似ている様に見えたからです。
そうして怪しんだ目で見ていると、もう1つ気になることがありました。
椿の前に現れて、協力を乞う健三さんの幽霊は、本当に健三さんなのでしょうか。
彼は、幽霊である自分のことが見える飛島家の人間が椿しかいなかったと言っていますが、椿が1人でいる時しか現れていないのです。
椿の父親である頼行と椿が話している時も、たとえ頼行に姿が見えなくても、そこにいることはできたはずです。
むしろ、事件解決の相談をするのなら、椿を通した伝言ゲームの形ではなく、椿を通訳にして直接頼行と相談すればいいはずなのに、そうしていません。これが物凄く怪しいです。
これをしなかった理由は、健三さんが健三さん本人でなかったからではないでしょうか。
健三さんの幽霊の存在を疑う頼行に、頼行と健三さん本人しか知らないことを聞かれて本人確認をされてしまうと不味かったのではないでしょうか。
健三さんの幽霊を名乗る存在と、生前の健三さんの写真の顔は確かにそっくりです。しかし、この漫画の設定だと抜け穴があります。
琴子に協力する妖たちの中には、化け狸の様に変身能力を持つ者がいます。彼らによるなりすましではないかという可能性です。
そもそも、妖たちの悩み事は知恵の神である琴子へと相談が行くのが本来の筋道。
その前の段階で椿に協力を求めている時点で少し疑問に思っていましたが、本来の依頼者から琴子へ相談が持ち込まれた結果、琴子の計略の一環として「健三さん」から椿へ協力を求めたのだとしたらどうでしょう。
健三さんを名乗る存在が椿の前に現れたこと自体が、琴子の意図によるものだった可能性があります。
他にも、健三さんが椿の前に現れた回で、次の回であっさり名前が出てくる巻田孝江の名前が入るはずの個所が、「そのためどうか走太郎様が――――を確かに殺せたと奥様に納得させられないでしょうか」と不自然に伏字になっている等、怪しい部分が多いのですよね。
「飛島家の殺人」はいろいろ引っかかるところが多くて、そこがミステリー的にすごく面白いですね。
今の龍子奥様が巻田孝江だったり、健三さんが本当に偽物だったりした場合も、それはそれで話に辻褄が合わなくなりそうで、その一方で、「こう考えれば説明がつきそうだぞ」という余地もあります。
事件当日に交通事故死したという走太郎は本当に事故死だったのか、殺人現場である巻田孝江の家で何があったのか、椿の父・頼行も何か隠していそうです。
今回は通常版と特装版の2種類がありましたが、特装版の方は電子書籍と紙の書籍で大分お値段が違いますね。
私は電子書籍版で虚構推理を読んでいて、アニメSeason1のBD&DVD特典他を収録した漫画小冊子が目当てで特装版を買ったので、少しだけ得をした気分でした。
小冊子はアニメ時空での毒キノコエピソードが面白かったですね。九朗の実家を思い出させるタイトルが秀逸です。