コミックコーナーのモニュメント

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クミカのミカク5巻 感想


クミカのミカク(5)【電子限定特典ペーパー付き】 (RYU COMICS)

 

 

 まだまだ夏全開で盛り上がる話から、夏の終わりの余韻まで、季節の「味」が出ております。

 さらには、地球に来る前のクミカさんのお話までも収録されたクミカのミカク5巻の感想です。

 

リゾート昼の部・青く大きな地球

 ビルのエアコンが故障し、仕事にならないので、ハルニさんの船で、出流原重工の別荘に遊びに来た面々。出流原デザイン事務所のメンバーに加えて、ハルニさんとメギアさん、エピーちゃんに、メロウさんまで含めた豪華フルメンバー。

 明るいカラーの見開きで、色とりどりの水着姿の女性陣が並んでいて、出だしから華やかで明るい回でした。この漫画の場合、肌の色までも色とりどりですからね。

 初めての海に騒ぐクミカさんだったり、海での女性陣のわちゃわちゃだったり、自分の星にない見渡す限りの大きな海にしみじみと感動するクミカさんだったり、バーベキューだったり、スイカ割りだったりと、本当にボリュームのある回でした。

 私としては、大きく広い地球の海に見入りながら、「すごく、特別なんだよな…」と思ったコマのクミカさんが、ベストカットでした。

 浮き輪に体を預けている感じの傾き加減と、パーカーのフードと髪の乱れ加減、それに合わせての静かに浸る表情が凄く良いです。

 

リゾート夜の部・星の海

 夜の部もとても良かったですね。アルコールで普段の控え目な様子と一変した荒ぶるエピーちゃん。イズル社長にハルちゃんと呼ばれて鼻血を噴くハルニさん。

 そして、2人で浜辺を歩くクミカさんとチヒロさん。この場面、凄く良かったです。

 何が良かったって、クミカさんの故郷のクロロジウムの話も良かったのですが、それ以上にその場の景色。雰囲気。空気の風情がたまらないです。

 ギリギリ陽の沈んでいない黄昏時。水平線に沈みかけた太陽が直接海を照らし、暗くなった空には星が輝き、月は満月。空は広く、2人のいる海辺も広く、でも周りに2人以外の人は誰もいない。

 昼の部の青く広大な海と、水平線と、入道雲に海鳥の影を添えたものも素敵でした。

 夜の部は昼の残光と、夜の闇のコントラストに、その間の濃淡の加減が絶妙です。カラーページでもないのに。むしろカラーページでないことを色調の美に生かしているような気すらします。

 小野中先生、人物の表情描写が巧みですし、色々な漫画的演出の使い分けも多彩ですが、こういった「その場所ごとの特有の空気」もとても風情豊かに表現されますね。

 海から帰る2人の去り際の余韻も素敵です。

 別荘に帰って、残り物で鯛茶漬けを作るわけですが、時計の時刻に驚きました。つい先ほどまで、夕日が水平線に残っていたはずでしたのに。

 そういえば、出流原重工の別荘と言っていましたが、日本国内とは言っていませんでしたね。移動は航星機でしたし。

 

梅干しとビーム

 夏バテで食欲がなくなってしまったクミカさん。最初はぐったりしているだけでしたが、次第に様子がおかしくなっていきます。

 自分は元々食事なんて必要なかったのだから、何も食べない今の方が正常な状態なんじゃないかと、全然正常じゃない魂の抜けた様な目で言うのが面白かったですね。負の目力とでも言いましょうか。

 力の抜けた気迫のない目に、逆に妙な迫力があります。中身がなくなり過ぎて逆に吸い込む力が発生している様な、奇妙な引力を感じます。

 食事をする前の状態に戻ったというよりも、食いしん坊になった状態から食欲を引いた結果、抜け殻になってしまったという印象です。

 好きな人とご飯を食べたいと慟哭するチヒロさんに絡まれたキヨシゲ君は、秘密兵器を投入します。そう、夏バテには梅干しです。しかも自家製の秘伝の品。

 魂の抜けた顔で、いらないと言っていたクミカさんが、みんなの梅干しを食べた時のリアクションに少しずつ血の通った反応をするようになっていくのが面白かったです。

 そして、ついに梅干を食するクミカさん。そのリアクションは、まさかのビーム。まさかのビームです。額の模様からビーム。正面にいたチヒロさんに直撃します。

 集中線付きのあんぐり顔で「ビーム出た」とリアクションする一同。みんな並んで同じ顔しているのに笑いました。※直撃を受けてダウンしたチヒロさん除く。

 チヒロさんの尊い犠牲の結果、食欲の戻ったクミカさんでしたが、これ本人的にはどうなのでしょうか。

 お花見の時の触手怪獣もそうですが、元々大部分の人が食事をしない第2クロロジウムで、アルコールの摂取や、極端にすっぱいものを食べた時に、何が起きるのかを本人が知っているのかが疑問です。クミカさん自身にビームを出した自覚があるのかも気になります。

 

コンビニとカップラーメンとクミカさんとハルニさん

 休日の朝、部屋着で歯磨きをするクミカさん。そこへアパートの窓の外から自家用機で来襲するハルニさん。この唐突なはじまり方は嫌いじゃありません。

 それにしても、ハルニさん本当に変わりましたね。海回の28話でもすっかり他のメンバーと馴染んでいましたし。

 性格も明るくなって、これまで抑圧されてきたものが解放されている印象です。悪気は全くないようですが、好奇心が暴走気味で、遠慮もなくなっています。アパートに、アパートとそう変わらない大きさの航星機で乗り付けるくらいですからね。

 ちなみに用事は「コンビニ行きませんこと?」でした。

 コンビニのジュースは、パッケージ情報だけでも日本人ならば味の方向性くらいは想像できますが、クミカさん・ハルニさん・メギアさんにとっては完全にノーヒントみたいなものです。アイス、お弁当もまた然り。

 コンビニの情報量に対しての圧倒的な知識の無さに対する三者三様。カップラーメンを知らない人が初めてカップラーメンにお湯を入れた時のそわそわ。実食時の反応。

 実際にありそうな反応であり、かつ、そのどれもとても楽しく面白おかしく描かれていました。コンビニでカップラーメンを買って食べるだけの話を設定の持ち味を活かしてここまで調理してしまうのが凄いです。

 それにしても、ハルニさん本当にかわいくなりましたね。メギアさんの独特のテンションもあいかわらずの面白さです。

 

夏の終わりと日本酒とにゃむにゃむ

 出流原デザインのみんなで食事をした帰り道。1つの季節の終わりの描き方に風情を感じます。

 季節の終わりのもの悲しさに寂しくなっちゃったクミカさんがかわいかったです。天然でああいうことができてしまう素直さが、クミカさんの魅力ですね。

 一同はそのままお酒を飲みに行くことになりましたが、日本酒に初挑戦のクミカさん。真面目な感想も詩的で、かつ、的確で良かったのですが、その後の酔っ払いモード・「にゃむにゃむ状態」がかわいかったです。

 唐突に席を立ちエイリアちゃんの膝の上に移動。困惑する彼女の両側頭部を触手でぺちぺちやりながら、「じゃれたい。かまって」。

 思わずとち狂った反応をしてしまうエイリアちゃん。それも納得。反則的なかわいらしさです。エイリアちゃんにもお酒入っていますしね。

 店を出た途端に感じるのは秋の風。虫の音は、行きがヒグラシで、帰りは鈴虫ですか。季節の変わり目を凄く粋に演出していますね。

 

番外編。第2クロロジウム時代のクミカさん。そしてまさかの…

 5巻の最後のお話は、質も量も、単なるオマケ漫画扱いするのは憚られる番外編。まだ地球に来る前のクミカさんのお話でした。

 クミカさんの星は外から星間航行技術が持ち込まれたパターンなのですね。

「第2クロロジウム」という名前や、あまり豊かではない様子から、元々の母星が別にある開拓星か、文明が十分に育つ前に他所の星に侵略された植民星としての歴史がある星かと思っていました。滅びた母星から脱出した人達の子孫という線もありえます。その辺は特に掘り下げられませんでしたが。

 外国ならぬ外星の街並みは、しっくりと受け入れられるものでした。私たちと何もかもが違うという訳ではなく、似ている所もあれば違う所もあるという塩梅。町並みの背景に見えるくびれたテーブル状の山が、いいアクセントになっています。

 さて、私が一番驚いたのは、クミカさんの故郷の様子でも、故郷での様子でもなく、クミカさんの星に訪れた地球人でした。クミカさんの妹のアルルカちゃんに説明会のパンフレットを渡した人です。

 いろんな星から集まった交流団の説明会。そこで地球を紹介している人の名前が「笠木」さんでした。チヒロさんの本名も笠木千尋でしたね。そしてご両親は宇宙で働いているそうです。

 夜の海でクミカさんの故郷の話をした時も、チヒロさんは「夜になると輝く石」の話をどこかで聞いた様子でした。

 さりげない所でこういう縁がでてくる展開は好きです。

 それにしても、説明会でやらかして、地球のことを巨大ロボットと巨大生物が戦いに明け暮れる修羅の国だと喧伝したのが、チヒロさんのお父さんだとは思いませんでしたね。

 2巻・10話を読んだ時にぜひ見てみたいと思っていた説明会の様子が見られて大満足です。

修羅の国」の様子を見たクミカさんもアルルカちゃんも、とてもいい顔をしていました。

 そういえば、エイリアちゃんの故郷でもやらかした地球人がいたはずです。こちらは魔法少女でしたが、同じく宇宙で働いているはずのチヒロさんのお母さんの姿が見えなかったので、そちらの線も怪しいかなと思っています。

 

 

 表紙裏のオマケで、メギアさんの名前が「メギア・シヴァ」と紹介されていました。3巻だと「メギア・カーリア」と名乗っていますが、単なる表記ミスでしょうか。あるいは何か文化的理由が設定にある可能性もある気がします。しかし、特にそういう記述もなく、気になりました。

 次でついに最後の巻となってしまいます。名残惜しいです。物語が終わる前に、ぜひクミカさんのご家族にも地球のミカクを味わってほしいです。