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ライドンキング10巻 感想


ライドンキング(10) (シリウスコミックス)

 

 龍脈を逆流させて、魔導院黒の塔の第二席・カーヴィンを倒すとともに、肉瘴気たちの怨念を浄化したプルチノフ大統領。

 物語も終盤に差し掛かるのかと思いきや、まさかの新展開。『ライドンキング』10巻の感想です。

 

プルチノフ大統領のイメチェン

 肉瘴気戦で、顔に傷を負い、人相が変わってしまったプルチノフ大統領。

 彼のイメージチェンジは、プルチノフ大統領というパロディーの元ネタと、現実の情勢にまつわる諸事情への配慮でしょうね。

 この作品のプルチノフ大統領は、圧政や、弾圧と戦って大国から独立を勝ち取った立場のはずなのですが。

 それはさておき、助けに来てくれたプルチノフ大統領と再会後の第一声が、悲鳴だったカーニャに笑いました。いえ、違いますね。カーニャと再会時のプルチノフ大統領の顔が怖すぎて笑いました。

 顔の傷からの流血、瞳孔が小さくなった目元、上の歯のみが見える半開きの口元、いつもより顔にかかる影を増量。微妙なアングルの調整や、背景も含めて、コマ全体がホラーテイスト。

 この画力で笑いを取りに来る感じは相変わらず面白いです。

 龍脈を逆流させるために、魔力を使い果たしてしまったプルチノフ大統領。この漫画は主人公の戦闘能力の乱高下が本当に激しいですね。

 物語を作る上で彼が苦戦する余地を残している事情があるのでしょうが、もはや魔力の有り無し程度では、彼が苦戦する姿が思い浮かばなくなってしまいました。

 今回は、顔の傷を残すための都合もあるのかもしれませんね。万全の状態のプルチノフ大統領は、たとえ胸の肉が抉れても即座に回復しないのはおかしいらしいので。

 テンポ重視でサクサクと話が進むのに、物語的にも、設定的にも、細かい部分へも調整と配慮が行き届いているこの漫画のクオリティーには、相変わらず唸らされるばかりです。

 

黒帯(ブラックベルト)と冒険者ギルドと全員集合

 冒険者ギルドでのサキ達の黒帯(ブラックベルト)昇段試験。腕自慢たち相手にあっさりと勝ち抜くサキ。

 自分との特訓の成果が出ているのが嬉しかったのか、「剣聖にでも弟子入りしたのか?」と、間接的に褒められたのが嬉しかったのか、ニヤケ顔のリィナが面白かわいかったですね。

 彼女も最初の頃とは大分印象が変わりました。

 他にも今回は今まで登場したキャラクターや、いろいろな種族が登場しました。敵だった相手と戦いの末に和解し、仲間が増えていく感じは、古き良き少年漫画的な良さがありますね。

 完全に都市国家と化していたプルチノフ村が、聖王国と連合国になりました。

 その発展の様子も、見ていて楽しかったですね。連合国の戦力と、特産品のラインナップが強すぎます。

 こちらは、ある意味で異世界召喚モノのお約束と見ることもできるのでしょうかね。文明の発展や、国家運営に携わるパターンはあっても、現職の大統領が召喚されるパターンは他に聞いた記憶がありませんが。

 これまでにちょくちょく出てきていた秩序側と、混沌側で対立しているという話だった宗教の問題もしっかりと解決。本当にそつがないですね。目配りと構成力が凄いです。

 そして、サキ達の黒帯昇段の後に明かされた真実。

 これまでの冒険の舞台であった北辺と、サキ達の実家がある本土と呼ばれる大地が人類の生息域でしたが、その外にも魔領域と呼ばれる世界があったことが語られました。

 冒険者ギルドの本来の役割は、この魔領域の探索だったのだと。

 私は前の巻を読んでいる際、そろそろ物語をたたみに行くのかと思っていたのですが、まさかのここに来てのマップ拡大、エリア追加。驚きました。

 ただ、今回のマップの件は、残りの物語の長さよりも、むしろ展開の方向性に関わってきそうなものだったのですが、最初にこの場面を読んだ時はまったく気が付きませんでした。

 マップのアングルが巧妙です。

 「ジャイアーン王国」とか、「スパルタン教国」とか、ついつい目が引かれてしまう面白そうな国名もずるいです。

 

ネビュートさまと青い森の向こうに見えるもの

 北辺から本土へ向けて、船で移動することになった一行。

 唐突なプルチノフ大統領のゴーグル装着の元ネタは、魔道具であるゴーグルの名前と、直後に一行を襲撃した海賊の人相で分かりました。某北斗な世紀末救世主の物語の海を渡るエピソードですね。

 狂化した大海獣によって、娘であるキャイリィを殺されたという海賊船船長・下足髭(げそひげ)ピラータ。元ネタ的に娘さんは生きていそうな気もします。どんな感じに修羅になっているのかは分かりませんが。

 海を渡った先で、ネビュートスの港に到着した一行。この54話のタイトルは「大統領と青い森」でした。そう「青い森」です。

 初めは特に意識しないで読んでいたのですが、次々に登場するキーワード。棘栗甘蟹(トゲクリシザース)に、黄金林檎と来て、祀られている神様の名前がネビュートさまです。

 ネビュートさまの石像は、オーガと思しき筋肉と衣装に、顔は隈取に縁どられた妙に力強い顔。この顔どこかで見た記憶がありますね。青森県の有名なお祭の山車とかで。

 漫画やアニメ、プロレスに、格闘ゲームなどのパロディーはこれまでも出てきましたが、ここに来てなぜ青森なのだろうと疑問に思った直後、ようやく違和感に気が付きました。

 そして、冒険者ギルドの場面のマップを見直して納得しましたね。

 この漫画はこれまで、全部拾うのが難しいくらいに多種多様なパロディーを繰り出してきましたが、まさか、そのパロディーが明確な伏線として使われるとは思いませんでした。

 いえ、勘のいい人は冒険者ギルドのマップを見た時点で気付きそうなので、青い森や、ネビュートさまはそれで気がつかなかった人用のヒントでしょうか。

 いずれにしても、大統領が召喚されたこの世界の真実と、今後の展開には関わってくるのは間違いのない伏線でしたね。

 気付いた時は驚きましたし、今後の展開にワクワクが止まりません。

 

魔導院黒の塔主・ベガの目的

 龍脈の逆流によるダメージが予想以上だった魔導院黒の塔。

 そんな中で、ついに黒の塔の主が登場しました。

 割と本気で、某黒い幽霊の総統みたいなカプセルに入った脳髄が出て来るのではないかと思っていたのですが、出てきたのは、何処かベルに似た顔の女魔導士。

 彼女とベルの関係も何となく匂わせて来ていますが、それ以上に明確に描写されているのは、彼女がプルチノフ大統領の召喚に関わっていることと、彼女自身が地球出身であること。まさかベルのあの喋り方までもが伏線であったとは思いませんでしたね。

 そして、膨大な数の龍脈をその身に宿していることです。ここに来てインフレが止まりません。

 ただ、何処かちぐはぐでもあるのですよね。彼女は地球に戻りたいがために、龍脈を使って宇宙を渡る技術を欲している様です。

 この星の龍脈の穴「龍穴(ドラゴンホール)」は7つとのことでしたし、それを超える数の龍脈を宿している彼女は、既に星の外にまで手を伸ばしていることになります。魔力が足りないとも思えません。

 魔力の量ではなく、純粋に技術力の問題であったとしても、ザラタンの様な龍の協力があれば、星を渡ることはできるとのことでしたし、黒の塔ならそれこそ龍の捕獲や、改造くらいはやらかしそうなものですが。

 にもかかわらず、彼女の目的を達するためには力が足りないと。もしかすると、彼女が欲しているのは単純な星間航行技術ではないのかもしれませんね。

 彼女は「龍脈の流れに逆らっての移動」に拘っている様子でした。

 7巻・33話でプルチノフ大統領は龍脈のことを「この世とは違う次元を流れるエネルギーの大河」だと言っていました。

 そして、冒険者ギルドで見せられたマップの地形が、私たちにとって馴染みのある見慣れたものであったことを考えるのならば、龍脈の上流と下流とは何なのか、故郷に戻るために彼女が何をしようとしているのかが、何となく見えてくる気がします。

 

 

 黒の塔のベガまでもが、未だにプルチノフ大統領のことを閃光魔術師(シャイニングウィザード)と呼んでいて笑ってしまいました。

 1巻3話でジェラリエが何気なく使ったその異名が、いまだに使われていることに何とも言えない可笑しさがあります。

 てっきり物語をたたむ方向に行くのかと思っていましたが、まだまだ続いて行きそうで安心しました。

 冒険者ギルドで見せられたマップの件。

 黒の塔の塔主・ベガや、賢者と呼ばれる男の欲するものの正体。

 聖王宮と肉瘴気の一件が解決したにもかかわらず、ハイエルフの姉妹たちが過去に散り散りになっていた理由も未だ明かされていません。

 色々と謎は深まるばかりですが、これからも物語が盛り上っていきそうでワクワクしています。