コミックコーナーのモニュメント

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ライドンキング11巻 感想


ライドンキング(11) (シリウスコミックス)

 

 プルチノフ大統領一行の立ち寄ったネビュートスの街を包囲する北方辺境伯軍。

 その背後で暗躍する魔導院・黒の塔の密偵である黒影たち。ライドンキング11巻の感想です。

 

カルホーン将軍と大統領流交渉術

 ネビュートスの街を守るため、北方辺境伯軍総大将カラーク・カルホーンとの“交渉”に挑むプルチノフ大統領。

 大統領流の交渉術に笑いました。街を包囲する軍の陣地、その総大将の寝所に単独潜入しての直接交渉。

 初日は警護の騎士や魔導士を全て眠らせ、2日目はさらに厳重になった警備をものともせず侵入。さらに、自分を討っても北方辺境伯家は止まらないぞと言うカルホーン将軍に、「ならばその辺境伯どのと直接“交渉”した方がよいのかな?」と返す大統領。

 目立つ外見のはずなのに使用人に化けてあっさり潜入成功していたり、カルホーン将軍が武装解除して腰を下ろしたベッドに先に横になっていたり、毎度毎度「スウ~」と夜の闇に溶けるように消えていったりと、将軍側から見た大統領が怖すぎて笑えました。

 おまけに、この“交渉”術、てっきりプルジア独立戦争時代の杵柄かと思いきや、どうやら大統領になった後もちょくちょくやっていたみたいです。

 回想のコマに映っている交渉相手は、みんな腰を抜かしていましたからね。大統領流交渉術の効果に説得力がありすぎて笑えました。

 そして、最後は完全武装で待ち構えるカルホーン将軍相手に力比べの真っ向勝負。筋肉と筋肉がぶつかり合い、二人とも力んだ顔がすごいことになっていて、ここでも笑えました。凄まじい形相の描写。まさに画力の勝利。

 他にも、夜の闇に溶けていく大統領の見事な漫画表現そのものだったり、57話冒頭のライトアップされた感じの陰影の神像ネビュート様のコマだったり、凹凸のすごい大統領の背中だったりにも笑いました。

 以前の感想でも書きましたが、高い画力でシリアスもコミカルも混ざり合って飽和するかのような作風のせいで、何でもないはずの場面やコマでも突然可笑しくなって笑えてしまうことが多々あるのですよね。

 いえ、もしかしたらこれらの大部分も馬場先生の計算どおりなのかもしれませんが。

 今回もたっぷり笑わせていただきました。

 

狂化の呪い

 北方辺境伯軍もろともに、大統領を亡き者にしようと狂化石の呪いを解き放つ黒影たち。この狂化の呪いはこの世界の大部分を人の住めない魔領域にしているものと同じ呪いらしいです。

 もしかしなくても、過去に人類が生存圏としていた土地の大部分が魔領域に飲み込まれた件には、黒の塔主ベガが絡んでいるのですかね。

 狂化の呪いは、以前カーヴィンたちが垂れ流していた瘴気に似た性質を持ち、物理でも魔法でも傷つけることはできないというより厄介な性質を持つ模様。つまり瘴気の上位互換。

 瘴気の時点で被害は一国の危機におよんでいましたが、狂化の呪いの被害は全世界規模。

 前の巻でベガの全身に取り込まれた無数の龍脈を見せられた時にインフレ具合に驚きましたが、被害規模でもインフレさせてきました。

 狂化の呪いはビジュアル面も素晴らしいデザインでしたね。

 空に浮かぶ黒い大渦の中央に眼があるという大まかなデザインの構想自体は、むしろありふれたものに感じますが、相変わらず細かい部分の調整でそこらのクリーチャーとは別物になっています。

 平面ではなく立体で渦を巻く造形や、瞳の濁り具合、さらに最初に見開きで登場した時点で、よく見ると気づくことができるくらいの塩梅で渦の中に配置された無数の眼球。意思疎通が不可能なタイプの邪悪さがよく出ていて、とても味があるデザインです。

 そして、そんな呪いの塊にすら騎乗しようとする大統領。

 はい。いつものやつですね。クリーチャーデザインの質の高さや、画力の凄みが、そのまま笑いに変換されます。馬場先生の巧妙な手口はそれを理解していても笑ってしまいます。

 摩訶不思議なアドベンチャー風に攻城兵器の矢に乗って飛び出し、謎のスタイリッシュポーズで呪いの塊に着地する大統領と、某史上最強の弟子風に眼光を噴くネビュート様にも笑いました。

 

キャルマー第三形態

 9巻で天竜に進化したキャルマー。今回は通常の天龍の戦闘形態とは違う第三形態をお披露目。

 「戦闘形態をサキとベルにキモイと言われて傷ついた結果生まれた新形態。」というあまりにもあんまりな第三形態の説明に吹き出しました。

 キャルマーのドラゴンフォームは、デザイン的にはとてもいいデザインだと思うのですが、何とも言えない違和感があります。

 『ライドンキング9巻』の感想でも書いたのですが、キャルマーの元の姿がトリケラトプスそのものすぎて、そのイメージが強すぎて、手足の長いドラゴンの体にその首がついていると、全体のスタイルのバランスを調整してもなお、強烈な違和感が残るのですよね。

 もし、「サキとベル」の部分を「読者」と言い換えるのなら、それだけ現代日本人の脳裏にはトリケラトプスの姿が強烈に焼き付いているのかもしれません。かっこいいですものね。トリケラトプス

 キャルマー第三形態はかわいい寄りの怪獣風デザインでしたが、同じくかわいい系のホッチたちと一緒に、捕まえた黒影たちを覗き込む1コマのつぶらな瞳が最高にかわいかったです。

 

黒影の謎

 今巻で大勢登場した黒影たち。黒の塔主ベガ直参の密偵です。彼らのことで1つ気になることがあります。

 全員が同じ顔をしていることです。大統領たちを殺そうとしていた黒影たちも同じ顔ばかりです。

 大統領に捕まってエドゥの闘魂注入(オーラシュート)で記憶を覗かれた黒影もいましたが、彼の記憶に出てきた「兄弟同然の仲間たち」もみんな同じ顔でした。そんな彼らに仲間同士で殺し合えと言った黒影の教官も同じ顔。

 黒の塔ではカーヴィンが大量に自分のコピーの魔造人形(ホムンクルス)を作ったりしていましたし、蒼紫の塔の元塔主・ダイアさんも自分と同じ顔の魔造人形を作っていました。

 だから、魔導院の関係者で同じ顔の人間が何人も出てきても、こういったクローンの様な何かだと思うだけです。

 それがなぜ気になるかといえば、10巻のラストで、「我ら魔導士の道断たれた影といえど黒の塔主に使える黒影…標的は逃さぬ」と言っていたことです。

 そう。彼らは自分たちを魔造人形だとは思っていないのです。

 魔導士になれなかった人間の寄せ集めにしては、びっくりするくらい同じ顔ばかりなのに、彼ら自身がそこに疑問を抱かない点も不自然で気になります。

 あと、黒影たちの目には、狂化の呪いに侵された人と同じエフェクトがかかっているのですが、その濃さの様なものが黒影ごとに違う気がするのですよね。

 黒影たちにはまだ何か秘密がありそうですが、黒の塔がらみなので、ろくでもないものであることだけは予想がつきます。

 

 

 ハイブリード公国第三公子ユージーンの依頼で、公王都カンナエを訪れた一行でしたが、到着した晩に、魔力切れのベルがベガに体を乗っ取られる展開となりました。

 カンナエに眠るのは堕ちた星龍。彼女の狙いは大統領に「経験値稼ぎ」をさせること。「気兼ねなく殺せるバケモノを用意してあげなくちゃね」とも言っていたので、何をしようとしているのかは明白です。

 そして、そんなことをしたら大統領がどのような反応をするのかも、ここまで読んできた読者にとっては明白です。

 星龍なんてものが大統領の前に現れた時に起きること、それを目にしたベガのリアクションが今から楽しみです。