コミックコーナーのモニュメント

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ライドンキング9巻 感想


ライドンキング(9) (シリウスコミックス)

 

 囚われのカーニャを救い出すために、ついに聖王宮に向かうプルチノフ大統領。

 しかし、龍脈からあふれ出した肉瘴気は聖王宮を覆いつくす程の大きさに。ライドンキング9巻の感想です。

 

ご都合主義の上を行く天空聖樹(ヒューペリエント)登場

 この漫画は、ストーリーがサクサクとテンポよく進みます。その割にはこれまでの展開に露骨なご都合主義はなかったように思えます。

 ところが、今回はご都合主義のそしりを免れることはできないでしょう。問題は前の巻で、黒の塔の襲撃を受けた聖王都の戦災復興。

 食料問題は魔獣の肉を保存食に。住居の問題は、死の谷から駆け付けた王闘鬼(キングオーガ)たちによって解決したものの、他にも問題が山積みです。

 その山積みの問題を新しく登場した、これまで登場の伏線すらなかったキャラクターが、1人で全て解決してしまうのですから。

 しかしながら、この漫画はご都合主義でさえも一味違います。ご都合主義ならご都合主義なりに、読者の想像を飛び越えて来る超ご都合主義が炸裂しました。

 登場するのは天空聖樹(ヒューペリエント)。ファンタジーでたまに登場する動いたり喋ったりする樹木の物凄く大きい奴ですね。はい。それが走ってきます。

 はい。走ってきます。それこそファンタジー的に表現するなら「世界樹」等と呼ばれてもいいような、非常識なサイズの樹木が自走してきます。根っこを動かして、街のすぐ隣まで。

 天空聖樹が根を下ろして1ページで、荒れ地だった街の周りに森が出来ました。

 さらに、その景色をプルチノフ大統領に褒められた天空聖樹が頭を掻いた拍子に落とした樹皮で燃料問題も年単位で解決。

 ここまでやられると、もうご都合主義で白けるなんてこともないですね。天空聖樹のサイズや、一瞬でできた森の規模も凄いことになっていて、それが一目でわかるカットまでありますし。

 ご都合主義もここまで振り切られると、もう褒めるしかない気がします。馬場先生恐るべし。

 

天龍キャルマ―と四天龍

 キャルマ―が竜モドキ扱いの亜竜から翼をもつ竜(ドラゴン)へと進化していたことは6巻・30話で語られていましたが、今回ついにドラゴンフォームをお披露目。

 デザイン的には細かい所までもスタイル・バランスの調整がされていて、何も変ではないのですが、正直、元のトリケラトプス体形のイメージが強すぎて、コラージュ写真の様な印象を受けました。彼も初登場時と比べると大分顔の印象が違いますね。

 竜の中でも珍しい天龍種になったそうですが、以前登場したザラタンと同格という事でいいのでしょうか。他の天龍たちの登場時の「この世を守る四天龍(してんりゅう)…」というセリフの文脈を読む限り、竜の中でも最高峰の存在であるようですが。天龍四天王に新規加入の5匹目メンバーということでしょうか。

 少し話題が脱線しますが、それぞれの文字の意味するカテゴリーがはっきりしていない状態で「竜」と「龍」の両方の漢字を使われると混乱しますね。どうやらこの作品では「龍」の方が格上の様ですけれど。

 四天龍VS肉瘴気ボス(※超巨大肉瘴気)の戦いは、それぞれの圧倒的サイズに加えて、遠近感、高低差、戦闘エリアの広さの問題まで合わさり、さすがの馬場先生の画力でもスケール感が迷子になったかと思いまいした。

 そう思った直後に、サイズ比較の図が挿入されるという親切設計。絵だけではなくてこういう所も本当に丁寧です。

 キャルマ―のドラゴンフォームお披露目や、四天龍登場時のプルチノフ大統領の顔が凄いことになっていたり、かっこよく登場した四天龍の内3匹がお笑い的な意味での天丼風にやられたりと、笑いどころはいろいろありました。

 しかし、個人的に一番笑ったのは、今巻でのザラタン登場時でした。

 子亀のドナテロ同様に、いえ、それ以上に徳間版ガ〇ラそのもののシルエットで、「ガメアアアアア!」等と咆哮を上げながら飛んでくる場面にやられました。アングルといい、狙っているとしか思えません。

 ザラタン飛行形態のデザインはちゃんとしていますし、ガメ〇とは飛行形態のシルエットもよく見ると違うのですが、そういう細かい部分も全て狙って調整されている気がします。

 少なくとも、私の腹筋にはいい刺激が来ました。

 

始祖種(ハイエルフ)と竜化の謎

 龍脈の瘴気を封じるために、人柱になっていたカーニャとミィナの母・聖王。

 彼女は以前から自分の事よりも、カーニャと、ミィナの事を気にしていました。

 しかし、実際は龍脈の力を瘴気の浄化ではなく、自分の延命のために使い、カーニャとミィナの姉たちの命も、そのために食い潰してしまっていた様です。

 「生への執着で自我を竜の因子に乗っ取られかけてる…」とのことでしたが、これまでカーニャのことを気にかけていたのも、自分に都合の良い様に2人を動かすための演技だったのでしょうか。

 その最後は、カーニャに目覚めた恩寵(※加護の進化系・固有の魔法のようなもの)により、竜の因子を掘り出された結果、龍脈の力を失い朽ち果てるというものでした。

 竜の因子を掘り出された彼女は、失った力に縋りながら朽ちて逝きましたが、最後の瞬間は、確かに娘を想う心を取り戻していたように見えました。

 この場面も、今回のおまけページにあった「ハイエルフ八姉妹能力解説」もそうですが、カーニャとその親姉妹の一件は解決したものの、色々と謎が深まりました。

 聖王は生に執着していたわけですが、単に自分が死にたくなかったからというわけでもなかった様です。「余は…余は生きねばならぬ…創造主の命に背くわけにはいかぬ」と意味深長なことも呟いていましたし。

 そもそも、エルフ達に呪い子扱いされていたカーニャだけではなく、他の姉妹たちも過酷な経験をしたと思しき記述があります。

 ミィナがカーニャと遭遇した時も「500年ぶりに」自分以外の始祖種を見つけたと言っていましたし、他の姉妹もバラバラになっていたのでしょうか。なら何故バラバラになっていたのですかね。

 始祖種たちは魔境の混沌の神々の勢力圏の王族ですが、森人(エルフ)達はそれに対立する太陽神側で同盟を組んでいるみたいです。※森人の信仰については1巻おまけページを参照。

 「創造主」という言葉も神々の事なのか、かつていたという古代人のことなのか。謎が謎を呼びます。

 

カーヴィン(オリジナル)死す

 散々魔境を騒がせていた瘴気の出所が魔導院であることが今巻で明かされました。

 ベルがエドゥを助けるために龍脈を通して魔導院にアクセスした辺りから、何となくそんな気はしていましたが、詳しい説明がされたのは今回が初めてですね。

 その内容は、方向性は予想通りで、実態は予想以上の外道の所業。

 自分たちの資源獲得のために、わざわざ管理しやすい人間を素体にした魔獣を作り、死の瞬間の怨念の大きさがこの魔獣の魔石の大きさに関わると知ると、今度はより強い怨念を植え付けるための研究を始めると。

 さらに、この魔獣が出すようになった猛毒の瘴気は龍脈の下流へ垂れ流し。むしろ、魔境の始祖種を追い詰める手段になるから都合がいいと。本当にろくでもないですね。まさに諸悪の根源と。

 と思って読んでいたら、犠牲者の怨念たちと対話したプルチノフ大統領の必殺技により、龍脈が逆流。犠牲者たちの怨念により、黒の塔のカーヴィンのオリジナルが消し飛びました。

 あまりにも速い展開に、少し笑ってしまいました。

 今まさに魔境に向けて侵攻するための転移のカウントダウンのゼロに合わせて、逆流したものが噴き出すのも何だか面白かったです。

 ただ、カーヴィンはあくまで黒の塔の第2席。つまり、まだ上がいるのですよね。

 

 

 私は、プルチノフ大統領が魔導院を「多国籍化した軍需産業民間軍事会社のようなもの」と解釈していた印象もあって、魔導院・黒の塔には、某黒い幽霊な死の商人たちの秘密結社の様なイメージを持っています。※魔導院は別に秘密結社ではないようですが。

 今回カーヴィンが倒されたことで、果たしてあの作品の総統みたいなのが出てくるのでしょうか。

 ただ、魔導院には経世済民を是として、実践している白の塔がある事もわかっているので、これで落とし所も見えてきた気はします。

 魔術兵器をばらまいている黒の塔を倒しても、魔術師を管理している魔導院自体がなくなるわけでないので、魔術師業界への影響は抑えられそうです。

 兵器供給停止の混乱の後始末も彼らに任せられますね。

 まだ残されている謎も多いのですが、何となく終わりが近いような気もします。

 元々テンポよく物語が進む漫画でしたが、それが加速している様な気がするのですよね。