コミックコーナーのモニュメント

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ライドンキング8巻 感想 


ライドンキング(8) (シリウスコミックス)

 

 成長著しいヨシュアスの執り成しもあり、聖王国側との衝突を回避できたと思った矢先に、魔導院・黒の塔の刺客カーヴィン(※2人目)が聖王都を襲撃。ライドンキング8巻の感想です。

 

全てが笑いに収束する

 以前の感想でも描いたのですが、この漫画はもう、露骨なギャグや、パロディーどころか、シリアスなシーンでも笑えてしまうのですよね。

 例えば、敵に操られているドラグリフォンの攻撃でプルチノフ大統領が負傷し、彼を守るために仲間たちが奮戦する場面。

 主人公のピンチに仲間たちが死力を尽くす展開というのは、少年漫画などでは王道の熱い展開です。逆境の中、みんなが自分にできることをするために走り出します。

 この場面も非常に高い画力で描かれています。

ドラグリフォンの咆哮(ブレス)が街を薙ぎ払い、鷲王獅子(グリフォン)を庇って、その直撃を受けたプルチノフ大統領。

 建物ごと街の地表を抉り、その先の丘すらも吹き飛ばす威力の攻撃に、胸の肉を抉られて力なく地面に倒れ伏す大統領。

 胸の肉の抉れ方が生々しいです。画力が高いからこそ、痛々しいダメージを的確に表現できています。

 しかし、待ってください。地を割き、山を砕くような攻撃を受けて、ただ胸の肉が抉られただけなのです。

 傷跡は生々しく痛々しいのですが、描写が巧妙だからこそ、致命傷でないことがわかります。内臓まで到達していませんし、出血も少なめです。肉が抉れているので重症には違いませんが。

 更にプルチノフ大統領の下に駆け付けたエドゥが「おかしい…オヤジほどの魔力があればこんな傷はすぐに治癒するはず」と彼の身体の異常に気が付きます。

 ここで笑ってしまいました。

 いえ、プルチノフ大統領の強さと、ファンタジーさが、インフレしているのは今更なのですが、ふとした拍子に彼が現代の地球人であることを思い出したり、肉が抉れるほどの傷がその場で治って当たり前で、「むしろ治らない方がおかしい」等というびっくり情報を出されたりすると、もうだめです。

 大真面目にシリアス調でやられるからこそ、そのギャップが凄まじい破壊力を生みだします。

 シリアスな笑いという奴ですね。

 笑ってはいけない状況の方が、笑いをこらえるのが大変になるのと、同じ心理の働きかもしれません。

 

怒涛の展開から、天空の城へ。

 エドゥの「闘魂注入(オーラシュートァ)」による心の中への呼びかけによって、復活した大統領。「闘魂注入」に「オーラシュート」はいいルビだと思います。この調子だとやはり、オーラを纏って巨大化もしそうですね。

 しかし、敵ははるか上空。

 そこへ、鷲王獅子たちの拠点である天空閣に乗ったキャルマ―達が駆けつけます。大統領はジャンプで合流。

 エドゥも驚く大ジャンプは、大統領のパワーアップを印象付ける演出ですが、パワーアップの理由は龍脈の力ではなく、鷲王獅子や、大蠍への騎乗(ライドン)だったという超展開。

 私はてっきり、瘴気のせいで龍脈の力が使えなくなっていたことが、新たな力に目覚める伏線かと思っていました。それを乗り越えたりだとか、あえて受け入れたりすることで何かしらのパワーアップがあるのだと。

 しかし、瘴気の影響は騎乗によるパワーアップによる力技で解決。私が伏線だと思っていたものは、そんなものは知らんとばかりに吹き飛ばされました。

 さて、大ジャンプした大統領ですが、天空閣の下部の穴から中に入ります。ここが何のパロディーかはわかりませんでしたが、「シュポンッ」とコックピット的なスペースに飛び出す大統領には笑いました。

 しかし、この後の超展開にはもっと笑いました。

 

天空の城からの超変形!DX大統領ロボ!!

 ドラグリフォンの攻撃で崩れた天空の城…ではなくて天空閣の中から、いかにも「天空の城」という印象を受ける紋章付きの立方体が出現。

 そして、「超、変、形、爆誕!!大統領ロボ!!」と立方体は巨大ロボに変形するのでした。

 それこそ、超画力によって描かれる素晴らしい変形シーン。天空な感じのする紋章は全然関係ありません。プルチノフ大統領の目がキラキラです。

 デザイン的には黄金色のライターなロボットのパロディーという事になるのでしょうか。元ネタを正確には知らないので推測になりますが。

 このロボはただ画面に出て来るだけで面白いのですが、プルチノフ大統領の顔を反映させたデザインなのに、ロボデザインとの兼ね合いで「べらんめぇ」と言いそうな下顎をしていました。

 これは流石に馬場先生の故意犯とも思えないのですが、もうここまでの展開のせいで笑いの沸点が下がってきているのですよね。それに「大統領スピアー!!」を繰り出す1コマ前のコマのアングル等、もしや狙っているのではと思えてしまいました。まさかとは思いますが。

 さらにこのロボは実は戦闘用ではなく、さらにさらに某光の巨人の様に胸のランプの発光で稼働時間の終わりを知らせる機能付き。

 直前のピンチからの怒涛の展開と言いますか、超展開に振り回されます。超展開に超展開、パロディーにパロディーを重ねて畳み掛けてきますね。

 ロボの自動音声のセリフに出てきた「お住いの銀河系」というパワーワードにも笑いました。

 

ダイアの過去とリィナとヨシュア

 戦いが終わり、葬儀の場面になりますが、「勇敢に戦い果てた戦士の魂を天空(スカイハイ)へと導き給え」のセリフ、天空にスカイハイとわざわざルビが振ってあるのは、某死後の世界の門のパロディーでしょうか。

 大統領も、サキも厳かな表情をしている場面で、こういうものを混入してくるのは本当にずるいです。

 葬儀の終わりから戦災復興の話題になり、今回の王都襲撃で利用された魔獣たちを進化させ、病で死んだことにした鷲王獅子の1人を改造するなんてことまでしていたダイアさんの処遇の話となります。

 かつて、経世済民を使命とする魔導院・白の塔に所属していたものの、綺麗事ばかりを唱える上役たちに反発し、蒼紫の塔という派閥を立てて黒の塔に対抗しようとした彼。

 その結果として、仲間と妻子を失い、魔導院から追われ、流れ着いた魔境・聖王国でリィナとヨシュアスに出会います。

 弟を人質に取られ、娼婦になることを強要されるも、自らの運命に抗いぬいて、聖戦士となり、弟も救って見せた彼女。

 そんな彼女に尽くすことを天命と思った彼は、あらゆる手段でリィナとヨシュアスを守り抜こうとしていたと。

 魔導院・黒の塔ともいずれ争うことになることを想定していたのでしょうね。

 姉弟を守ることが目的だったにせよ、実際の所、ダイアさんがやっていたことは外道の所業ですし、償いをするためという形でも、放免されるという展開は、ご都合主義になりかねません。

 まとめ役をできる行政官が他にいないからという理由は、ある意味では現実的ですが、他にも、同胞を弄ばれた鷲王獅子がその事実を知った上で飲みこんだり、実際に問題を解決したプルチノフ大統領の執り成しがあったり、ダイアさん自身がかつて自分で綺麗事だと反発していた白の塔のやり方に意義を認めた所に、プルチノフ大統領の名台詞が突き刺さったりと、描写が丁寧なのですよね。

 この辺りは調整を間違えたり、描写を省いたりすると途端に安っぽいご都合主義展開になってしまう所だと思います。テンポを崩さず、かつ読者を納得させられる描写を盛り込める構成力が流石です。もう本当に今更ですが。

 ちなみに、そんな流れの中でも笑ってしまいました。具体的には過去回想でティナが聖戦士になった場面の効果音です。

 構図から連想するものは何もなかったはずなのに、独特の書き文字の「ズキュウウン」の効果音だけで、昭和の光の巨人の2人目の変身シーンが脳内再生されました。

 もう、無意識にパロディーを探して、意図されたパロディー以外にも何かを連想して笑ってしまうとでも言いますか。

 普通の漫画だとさすがにあり得ないので、これもこの漫画の雰囲気のなせる技と言いますか、凄い所だと思います。

 

 

 大統領ロボのインパクトがあまりにも強すぎますが、他の場面もハイクオリティーな笑いで満たされていました。

 そして、それを支えるのは、やはりこの画力。

 自分たちの大嫌いな竜になってしまった同胞に涙を流す鷲王獅子の顔が、鷲の顔なのに、ちゃんと悔し泣きの表情になっているのが相変わらず凄いですね。

 表情と言えば、すっかり突っ込み役になってしまったエドゥも良かったです。

 大統領ロボが戦闘用でないことが判明した場面での「あ……っあんだけハデに現れといて…弱えのかよ!」。1コマ目の歪んだ口元から、何とも言えない泣き怒り顔への流れが素晴らしかったです。顔だけではなく手元のジェスチャーでも遣る瀬無い感情が見事に表現されています。

 全体的に、今回はいつも以上に笑わされた気がします。