コミックコーナーのモニュメント

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異形エステティック1巻 感想


異形ヱステティック 1 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

 読むと癒された気分になったり、マッサージを受けに行きたくなったりします。異形の存在が人知れず人間を癒す不思議な漫画。異形エステティック1巻の感想です。

 

混沌とした捉えどころのない魅力のマッサージ漫画

 肩こりで悩む高校生のマキちゃんは、クラスメイトの紹介でマッサージ店を訪ねます。

 何処か怪しい雰囲気の店構えに不安になるものの、それは全くの杞憂。

 担当の千樹さんの腕はたしかで、少し触られただけでいくつもの癖や、生活態度を言い当てられてしまいます。とても気持ちよく、時に痛く、それでもやはり気持ちのいいマッサージで丁寧にこりをほぐされ、施術を受け終えた彼女の肩は羽のように軽くなりました。

 しかし、帰り道でふと気になることが。マキちゃんは、ミステリアスな美人だったはずの千樹さんの顔を何故か思い出せないのでした。

 これが第1話「快楽手技」のマキちゃん視点でのお話です。

 この漫画は非常に珍しい「本格的なマッサージの漫画」なのですが、その描写はとても細かく丁寧で、じっくり読んでいると、本当にマッサージを受けている様な気分になってきます。本当です。少なくとも私はそんな気分になりました。

 どれくらいマッサージ描写が細かいかと言うと、1巻収録の第1話から第5話では、1話当たり32ページのエピソードの半分程、場合によってはそれ以上のページがマッサージシーンに使われています。

 1話目は肩のマッサージですが、千樹さんの手元や指の動きが丁寧に描写され、マッサージを受けるマキちゃんの反応や、千樹さんのユーモアもあり、マッサージをしているだけの場面もとても面白いです。「肩甲骨はがし」の件などお気に入りです。

 千樹さんの顔が意図的にはっきり描写されない様になっているのも、手元の方に意識が行くのでマッサージに集中できます。

 しかし、指先の描写は丁寧なのですが、何故かマッサージをする手が同じコマに3つある事がちらほら。千樹さんは1人で施術をしているはずなのですが。

 そうこうしている内にマキちゃんもすっかり夢心地。「…頃合いですね」と呟いた千樹さんのシニョンがひとりでに解け、明らかに異常な量の長く広く伸びた黒髪から無数の手が現れます。これまではっきりと認識することができなかった彼女の顔には大きな単眼の瞳が現れ、漫画のテンポが一気に変わりました。

 変わりましたが、無数の手は揉み、解し、指圧し、的確にマッサージの仕上げにかかり、何が何だかわからない内に、マキちゃんの体はすっかり楽になるのでした。

 とても面白かったのですが、何なのでしょうかこの漫画。

 

淡々としている様で独特な味のある日常と、非日常な異形たちの日常

 エステシャンでマッサージ店の店主・千樹要。高校生でマッサージ店アルバイトの神木鳴子。他にも生徒会長で茶道部の八雲さわり。この人たちは皆、正体不明の異形の存在なわけですが、ごく当たり前に人間の中に混ざっています。特にそれについて詳しい説明はありません。

 日常の中に潜む非日常的存在ですが、そもそも何故マッサージ店をやっているのか、女子高生をやっていたりするのか、本編でその辺の説明はまったくなしです。※オマケページでも、ごく僅かに匂わせる程度。

 妖怪なのか、悪魔なのか、あるいはクトゥルフ神話的な存在なのかも断定できる描写はなしです。強いて言えば「異形」でしょうか。

 その正体不明の異形の存在が妙にフレンドリーだったり、笑いのツボが妙に人間臭かったり、かと思えば、やはり人間ではないと思わせる顔をしたと見せかけておいて、随分ととぼけたことを言ってみたりといったアンバランスさが面白いです。

 ハイセンスなセリフ回しや、淡々としている様で何処かとぼけた日常描写も、この漫画の面白い所です。

 何がどう面白いのか、いざ言語化しようとすると、とても難しいのですが、マッサージパートも日常パートも全体的に面白いのですよねこの漫画。

 

この漫画の異形の面々

 異形がマッサージをするという漫画自体がかなり個性的ですが、登場する異形の面々も個性的で魅力的です。

 

樹要

 無数の手と大きな単眼が特徴の千樹さんですが、お客さんは彼女の顔が人間と違うということを認識できないみたいです。彼女を見た人間は、「落ち着いててミステリアスで美人」、「優しそうな女の人」、「大人びてて素敵な人」といった印象を抱いています。

 マッサージの仕上げでは大量の手がお客さんをほぐしますが、それも見えていないようですね。

 1話目はともかく、2話目ではお客さんの正面から足のマッサージをしていますし。千樹さんに横から抱きかかえられているのに、伸ばした足のマッサージが成立していたことに疑問が持たれなかったのは、彼女のマッサージが刺激的過ぎて前後不覚になっていたのですかね。

 あるいは見えていても認識できないだとか、そもそも疑問に感じること自体ができない様になっているのでしょうか。この辺りの設定はいろいろなパターンがあり過ぎて、逆に絞り切れません。特に説明がない場合は読者のフィーリング次第ですが、この辺りの曖昧さは合う合わないがあるかもしれませんね。私は好きです。

 肩甲骨はがしでは「あの…はがした肩甲骨はどうするんですか?」とマキちゃんに聞かれて「施術後に持ち帰ってもらいます」と返す等、茶目っ気たっぷりな人間味があるかと思えば、「安心してください。人類の体には詳しいんですよ」というセリフを人外感全開の表情で言う等、日常感と非日常感、人間味と人外見のギャップに味がありますね。

 手の描写が丁寧に描かれているおかげか、彼女のマッサージシーンが一番マッサージをされている感じになります。※手の他に触手や道具を使った施術をする人もいます。

 彼女が人間にマッサージをする理由は、半分は世界のためで、もう半分は趣味だということがおまけのインタビューで語られていました。

 このインタビューも、最初の方は何となく話の内容を理解できそうなのに、話が進んで行くにつれて理解することも難しくなってくる不気味さで、雰囲気がよく出ていました。

 

神木鳴子

 1巻ではまだ登場していない人も含めて、この漫画のキャラクターで一番のお気に入りです。

 人間の姿はかなり背が高く、恵まれた体格の持ち主。マッサージの仕上げで能力を使う場面を見ていると、口元をはじめとして鮫の様な特徴が目につきますが、彼女が放った電気の方にも顔の様なものがあり、やはり彼女も正体不明の異形である模様。

 人懐っこく、化け物レベルのコミュ力を誇ります。

 食べることが大好きで、2000円相当分のパンをおやつにしたり、机に立てた教科書の影に三段重を置いて早弁したり、マッサージを受ける同級生を見ながら「つやつやでおいしそうだな…」と思ったりもしていました。※思っただけです。

 マッサージの腕は確かなのに、語彙力が追いついていなかったり、人間にはないはずの能力の誤魔かし方が雑だったりと、一貫して愉快で面白い人です。※人ではありません。

 全体的にセリフ回しが面白いこの漫画の中でも、彼女のセリフには特に光るものがあります。

 「ゴクラク道場に連れてってやるよ」「どこ連れていく気だ」とか、「(マッサージ中のお客相手に)このあたりは背骨を支える筋肉とかーなんかいろいろあるから効くんですかね?」「いや知らんよ」とか、「このクリームはなんか…奥にしみこんで…その…乾きにくくなって…しめっとしてきます」「いや言い方よ」等々、お客さんの切り返しも込みで明言が多すぎます。

 とんでもない言い間違いをしたかと思えば、ウィットにとんだことも言う等、愉快な語彙力の持ち主です。

 

 

 今巻のラスト、事件をねつ造して記事にする悪質新聞部部長を追い詰めた生徒会長にして異形の1人の八雲さん。彼女の口元が人間のそれとは違う歯並びになっていて、構えたデジカメのファインダーからは血の涙の様なものが垂れていました。こういう細かい演出も素敵です。

 この漫画はマッサージの描写だけでも気持ちいいのに、さらに、異形の存在たちの出す異質な空気と、そんな非日常の存在であるはずの彼女たちが人間味のある日常を送っている様子が愉快で面白いです。