コミックコーナーのモニュメント

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異形エステティック2巻 感想


異形ヱステティック 2 (MFコミックス フラッパーシリーズ)

 

 異色のマッサージ漫画にして、それ以外にも名状しがたい魅力のある漫画、異形エステティック2巻の感想です。

 

第7話:時を傍に 

 この回はとても話のテンポがよく、面白い場面も盛りだくさん。マッサージシーンも充実していて、神木鳴子活躍回。彼女のぶっ飛び具合と、人懐っこさが良く出ていて、全エピソードの中でも特にお気に入りの回です。

 神木鳴子が自宅と思われる場所で起きる所から話が始まるのですが、異形キャラクターの私生活の描写自体が貴重なのですよねこの漫画。

 彼女がバイトに行ったら行ったで、始まって数ページで立て続けに面白いことばかり起こるカオスぶり。

 神木鳴子が唐突に何かを思いつき「よし行くか!客引き(マンハント)に」と出かける場面と、そのマンハントでの展開も最高です。

 それがたやすくできてしまうだけの力を持つ異形の存在である彼女の「マンハント」という物騒な言葉選びに笑いましたが、この後の展開でさらにそれ以上に笑いました。

 繁華街の一角、路地に一歩入ったところで佇んでいたのは、本日のお客様の女医さん。4話でこのみ先生と飲んでいた人ですね。

 何処か暗い雰囲気で煙草をふかしていた彼女に声がかけられるわけですが、彼女が声のした方に返事をして振り向くと、そこにはバニーガール姿の神木鳴子。

 想像して下さい。思考に沈んで自分の世界に入っていた状態で声をかけられて、振り返ったら、自分より頭2つ分以上背の高いバニーガールがこちらを見下ろしているのです。状況に理解が追いつきません。

 「何者…?」、「マンハント中のウサギです」、「人類に復讐を?」という2人のやり取りも秀逸です。この女医さんに限らず、この漫画は言葉選びにキレがあって、ノリのいい人ばかりです。

 気持ちよさすら感じられる丁寧なマッサージシーンの合間に、神木鳴子が過去に讃美歌を作ってもらったことがある事もわかりました。成程、昔、何処かで祀られていたのですね。

 「モテモテだったもので」、「称えられる程に!?」というやり取りも好きです。神木鳴子担当の回は会話のノリが楽しすぎます。

 いつの間にか鼻歌の讃美歌が合唱になっていたのは、女医さんの背後の神木鳴子に、口がいっぱいあったからでしょうか。それとも雷の精のような者たちも一緒になって歌っていたのでしょうか。

 電気マッサージの電気の流れの表現の仕方も面白かったです。何処がどう刺激されているのかイメージが的確に伝わりました。

 導入部分から最後まで、面白いと楽しいばかりが詰まった大満足回でした。

 

この漫画の異形の面々・その2

 この漫画に登場する異形の面々に関しては、作中で詳しい説明がない反面、それがかえって読者の想像を掻き立てる楽しさがあります。

 

八雲さわり

 生徒会長で茶道部にも所属しています。髪型は黒髪のロングヘアで、中肉中背。大量の触手を操ります。触手は数だけでなく種類も豊富。

 巨大な烏賊の様な姿も見せています。

 烏賊のような姿の他にマーメイドの様な姿も披露していますが、これはこれで頭足類的な本来の姿と、人間の姿の中間の姿だと考えると、マーメイドの尾に見える部分が烏賊のヒレの部分に見える気もします。人間の頭の部分がそのまま烏賊の頭部(目玉がある辺り)で、髪の毛が触腕で、人間の姿を上下さかさまの烏賊の姿に見立てるとすっきりしますかね。

 まあ、結局、正体不明。どことなく頭足類的な異形だと考えるしかないのですが。エコーロケーションの様な事もしていましたし。

 6話では迷惑な捏造記事を書く新聞部部長・鍵村さんをオイルマッサージで成敗していました。

 水泳部エースの水谷さんを癒していた時も、オイルマッサージだったので、オイルマッサージが得意なのかもしれません。

 「覚悟、信念、忠義、愛情、素晴らしい人間の美徳だわ。そういったものを快楽に負けて差し出す声が私はとても好きなのよ」と、思わず本性がこぼれてしまう位のとてもキラキラした素敵な表情で語っていました。

 偏向報道どころか、事件自体でっち上げてジャーナリズムだと言い張った挙句、自分は間違っていないと言い切る鍵村さん。

 鍵村さんのそれは美徳とは言わない気がするのですが、八雲さわりが本気で美徳だと思っているのか、皮肉で言っているのかの判断に迷います。

 人外の存在であるが故の感性かとも思いましたが、人間の社会のことは正しく知っている様子。ただ、皮肉を言っているとは思えない、あふれんばかりの恍惚とした表情で言っていたのもので。

 彼女は当初、腹黒い裏の顔もある優等生という印象でした。

 ところが、自分が修学旅行でやらかしていたことにずっと後になってから気が付いたり、千樹さんに弄ばれた上に負けて涙目で退散したり、夜の学校に潜入中に大声を上げた神木鳴子に注意しようとして、自分も大声を上げて先生に見つかったりと、割と隙も多い様子。

 そんなところが面白かわいいです。

 

綿織ひつぎ

 人間の姿は異形達の中で一番小柄。ボブカット。普段閉じがちな目は羊の様な瞳になっています。と言うよりも、彼女の本性は巨大な羊の様なもこもこです。

 割とやらかすタイプの様で、8話では彼女が原因で、集団昏睡事件が起きていました。

 さらに、最終話で登場する「超常とされる事象に関して調査報告をまとめる仕事」をする人たちの資料では、神木鳴子や、八雲さわりが、シルエットや、体の一部だけなのに対して、彼女だけはばっちり本性を撮影されていました。山と見違えんばかりの巨大なもこもこがキュートです。

 自分の体毛や蹄を自由自在に加工して、様々な道具をその場で作り出せる便利な能力の持ち主。作った道具は千樹さんのお店の通販でも販売中。

 人を眠りに誘うものにして、本人も夢遊病

 体毛で作ったリラックスクッションやベッド、蹄で作ったホットストーンやマッサージローラーを使った施術が、それこそ眠ったままできるくらいに得意なようです。

 初登場時は、夜の学校を巡回中の警備員の女性を突然もこもこの中に引き込みました。

 謎の空間で、満月を背後に、影に覆われた顔で、吹き出しに収まらないくらい「いらっしゃいませ」を繰り返すなど、不気味そのものでしたが、相変わらずすることはマッサージ。

 彼女のもたらす眠気と、突然始まったマッサージに抗おうとして、あっさり負けてしまう警備員さん。

 真面目な人だったのに、異常な状況なのに、マッサージの心地よさに負けてあっさり流されてしまいます。状況の異常さと、心地よさそうな警備員さんのギャップが面白いです。警備員さんのリラックス顔がかわいかったです。

 ちなみに、集団昏睡事件をやらかした理由は、朝に弱く、期末テストが近いためこっそり学校に寝泊まりしていたからというものでした。寝相の悪さもあって、眠りをもたらす抜け毛がばらまかれていたわけですね。

 怪異ひしめく夜の学校に平気で寝泊まりできる点は、さすが異形という感じですが、その異形が、期末テストの日に寝過ごすのを恐れて学校に寝泊まりしていたというのが笑えます。

 しかも、事件が起きた時点でまだ「期末テストが近い」です。いったい何日寝過ごすつもりだったのでしょうか。

 

最終話:箱の中の快楽 名残惜しいラストマッサージ

 最終話は「超常とされる事象に関して報告書をまとめる」お仕事をする公務員さんが登場。

 彼女が千樹さんと遭遇した時の状況が、これまでのお客様と違ってホラーそのもの。まあ、結局マッサージはするわけですが。上半分の見開きゴマで、無数の腕を広げる千樹さんが美しいです。

 いつもとアプローチの仕方が違うなと思ったら、千樹さん、彼女が持っていたデータを処分する目的があったわけですね。綿織ひつぎとか本性がばっちり映っちゃっていましたからね。

 施術後に千樹さんの顔に気付いて何かを言おうとした公務員さんに、「おや!ふふふふふふふふ、なるほどお客様、眼がいいんですね」と千樹さんが返す場面。絵の雰囲気以外に何かぞくぞくするものを感じるなと思ったら、「眼がいいんですね」の部分だけ、文字のフォントが違いました。

 こういう演出も侮れない効果がありますね。フォントの違いにはっきりと気付く前からぞくぞくしていました。

 その後、公務員さんは持っていたデータの一部破損・欠落と、自分の記憶の一部欠落が判明。何があったか覚えておらずとも、「記憶がない」ということ自体が自分の身に何かが起こったという証拠です。そのことにワクワクする彼女。

 どうやら千樹さんはマッサージで癒した上に、仕事のやりがいで悩んでいた彼女を救えた様子。

 それにしても、未知の存在によって、自分の記憶を弄られたという異常な状況で、恐怖に震える以上にワクワクできるなんて、この公務員さん、このお仕事に向いていますね。

 この回の不満は、これが最終話であることですね。この漫画をもっと読みたかったです。

 

 

 8話の様子から異形の女子高生組が高校に通っている理由が窺えます。

 この学校は異常に怪異の発生数が多く、それに対応するための様です。今まで登場した以外にも異形関係の人がいる模様。その人たちが登場したのは後ろ姿で1コマだけでしたが。

 こういった細かい情報を拾い集めながら想像を膨らませるのも、この様なあらかじめの説明が少ないタイプの漫画の楽しみ方ですが、情報が十分にそろう前に終わってしまいました。どうやら打ちきりらしいです。面白い漫画でしたのに。

 本当に希少で変わった面白さの漫画であっただけに残念です。

 マッサージを見ていて気持ちよくなれるなんて漫画も初めてでしたのに。

 マッサージのネタの数からしても、長期連載には向いていない題材であるとは思うのですが、最低でもあと3巻分は読みたかったです。